Chapter4 主演不在の祭り

Chapter 4-1

 シュラは、眼下に棚引く街並みを見下ろしていた。


 点々と灯る明かりは、夜の帳が降りても未だに続く人の営みを示している。脈々と続いてきたそれが今夜、終焉を迎えるのだとも知らず、日々の繰り返しは続く。


 月島ホールディングス本社ビルは龍伽の地を囲う日夏市の中心街に建設された超高層ビルだ。この地方最大のターミナル駅である日夏駅に併設された、全高245mのツインタワーにも匹敵する高度を備えた商業施設である。多種多様な業種における実績を束ねた、その結果がここにあると言っても過言ではないだろう。


 日夏市最大級のベッドタウンと名高い龍伽とは対照的に、午前一時を過ぎて尚、オフィス街として栄えてきたここでは人口の明かりは途絶えない。日夏市におけるビジネスの中心であり、娯楽の最大手であるここから人の姿が消えはしないだろう。――今夜までは。


 未だ寝静まらない街の只中において、シュラが屋上に立つこのビルだけが静寂に包まれていた。各階における蛍光灯の明かりは悉く消え失せ、どのオフィスにも人の気配はない。色鮮やかな光に彩られた街並みのなかで、完全に機能を停止した超高層ビルは静謐な棺のようでもあった。だがビル前の通りを横切る誰もが、昏く色を失くしたそれを気に留めはしない。


《どうしたのかね、シュラ》


 黙りこくった彼に語り掛ける声は、耳にあてがったスマホから聞こえた。


 シュラは目を閉じ、通話先の声に答える。


「これは失礼いたしました、我が王。いよいよ世界の終焉おわりが近いかと思うと、少々感慨にふけってしまいまして」

《ほう、それは興味深い。君であっても、世界の終焉りにはなにか思うところがあるということかな?》

「いえいえ。恐れ多い。私の感傷など些細なもの。我が王の意に従うまで」


 ふむ、とだけつぶやく声の主の意は、シュラにはわからなかった。


「役者は揃いました。今のところは王のシナリオ通りの展開です」

《それは素晴らしい。我がシナリオの成就、これからも期待しているよ》

「かしこまりました。それでは我が王。魔神再誕のシナリオ、どうぞお楽しみください」


 通話を終えると、シュラは再度街並みを睥睨する。

 そして、もう興味がないとばかりに踵を返した。

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