第9話

*****


帰途は、診療所の医師が最寄り駅まで車で送ってくれた。


ローカル線を乗り継ぎ、最終の新幹線にどうにか乗り込んで、グリーン車のシートに腰を埋める。


駅ナカで仕入れてきた紙カップ入りのレギュラー・コーヒーでヒトココチつき「ホーッ」と深くタメ息をつくと、星尾ほしおは、なにげなく隣の席に声をかけた。

「ねぇ、祭守」


「はい?」

真っ暗な車窓の外を眺めていた陽向ひなたは、気軽にヒョイッとふりかえった。

カットソーとカーゴパンツの身軽な軽装もあいまってか、旅の疲れも見えず涼しい顔だ。


かたや星尾ほしおも、洗いざらしのカジュアルなシャツとパンツに着替えてはいるのだが、身も心もグッタリと疲弊ひへいしていた。

「祭守は、どうしてオレなんかを同行させてくれたんです? 今回の旅に」


「…………」

他愛もない答えをすぐに返すと思いきや、陽向ひなたは、一瞬だけキュッと口をつぐんだ。


それから、あまり表情筋が発達していなさそうに見える頬辺に、めったにお目にかかれないような無邪気な笑顔をのぞかせると、

星尾ほしおさんなら、女の子のアツカイ方に一番よく慣れてると思ったんです」

と、ほんの少しキマリが悪そうにささやいた。


「はぁー、なるほどです」

星尾ほしおは、切れの長いハシバミ色の目をキョトンと見張ってから、なんとなく気恥ずかしくてアイマイにアイヅチを返しながら、陽向ひなたの分のホットココアを手渡した。

「熱いから、気をつけてください」


「ありがとう」

陽向ひなたは、受け取った紙カップにゆっくりと口をつけてすすってから、星尾ほしおの目をのぞきこむように見て、

「ボクの人選は間違ってなかったでしょ?」


「は?」


星尾ほしおさんは、女の子のアツカイ方を本当によく分かってた」

と、今度は大まじめな顔つきで言った。


星尾ほしおは、自分の頬がカーッと熱くなるのを自覚した。


―――この浮き世ばなれした天然っぷりには、どうしてもタチウチできそうにない。

たまらずギュッと目を閉じると、到着駅まで、ひたすらタヌキ寝入りをキメこんだ。




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