第7話

にぎやかに談笑しながら献花台とひつぎの間をイソイソと往復してまわる村人たちの様子を遠目に見守りながら、星尾ほしおは、隣にたたずむ陽向ひなたに遠慮がちに声をかける。

「ねぇ、祭守……」


「はい」


「桜の木にやどる少女の霊が、今この村にはびこってるハヤリ風邪の原因だって、祭守も思ってるんですか?」


「まさか。思ってませんよ」

陽向ひなたは、けして失笑や嘲笑ではなく、生まれつきキュッと上がり気味の口角がひとりでに作り出した柔らかなアルカイック・スマイルを伽羅色きゃらいろの端正な顔に浮かべると、あっさりと言い放った。


星尾ほしおは、8才も年下の少年の超然としたその風貌に羨望さえ覚えながら、形のいい柳眉をしかめて、

「でも、じゃあ、どうして、……こんな茶番みたいな儀式を? あの女の子をそのまま浄霊してあげれば、てっとり早かったんじゃ……」

そう言いかけてハッと、昨日の夕方ここで陽向ひなたと少女の霊が話していたことを思い出す。


―――おハナは、お布団のかわりに、たっくさんのお花をかむって寝たいな。

そうねだる少女に、

―――いいよ。じゃあ、そうしよう。

と、月御門つきみかどの若き祭守さいしゅは、軽やかにアイヅチを打っていたものだった。


「……これで、いいんだよ」

星尾ほしおの心の声に答えるようなタイミングで、たまたま前を通りかかった医師が言った。

「"病は気から"って格言には、どんな名医も口答えできねぇ。ほら、見てみろ。昨日まで死神にとりつかれたような顔色してた年寄りどもが、ゴキゲンでスキップしてやがる」

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