第33話 本当にさようなら

「俺は、風花ちゃんに近寄らない! もう風花ちゃんと関わるのやめる、風花ちゃんと幼馴染だけど、幼馴染するのやめる―だから、その写真を秋穂さんに見せるのはやめてくれ! 絶対に、その写真だけは見せないでくれ!!!」

 キス写真をちらつかせながら、ニヤニヤ怖い笑みで俺を見る難波ちゃんに、俺は決意を込めた大声でそう叫ぶ。


 絶対ダメだ、俺は秋穂さんに悲しんで欲しくないから! 秋穂さんにないてほしくないから、秋穂さんには笑っていてほしいから!!!

 だからやめて、風花ちゃんにはもう近づかないから……しんどいし、アレだけど、でも……風花ちゃんにはもう近づかない! 難波ちゃんの彼女の、風花ちゃんには絶対に近づかない! 


 その俺の言葉を聞いた難波ちゃんは、さっきまでの表情を崩さず、けれどもどこか硬骨な表情を浮かべながら、

「ふふっ、本当? 本当に誓える? 本当に金輪際、風花に近づかず、風花と話もしない―その条件ちゃんと呑めるか?」


「……う、うん! の、呑める、呑んでやる! 絶対風花ちゃんには近づかない、風花ちゃんに何言われても全部断る! 二度と風花ちゃんと、俺は関わらない!!!」

 それが秋穂さんと俺との幸せになるなら、それで秋穂さんが悲しまず、またいつもの可愛い笑顔で笑ってくれるなら。


 それに風花ちゃんも、難波ちゃんも……こうした方が幸せになれるなら。風花ちゃんは俺といるより、絶対に難波ちゃんといた方が良いから、俺なんかより難波ちゃんと過ごした方が良いから……寂しいけど、これが正解! 


 俺の選択肢はこれしかない……だから、さよなら、風花ちゃん。

 今度の今度は本当に……本当にさようなら、風花ちゃん。

 大好きだったよ、本当に。ずっとずっと楽しくて、幸せで、大好きだった……だから、さよなら。大好きだから、さよなら、風花ちゃん。


「アハハ、正しい判断だ、野中! それじゃあ、誓え! 私、野中悠真はこれから絶対に風花に近づきません! 金輪際風花に、絶対近づきませんって大声で言ってくれ、ちゃんと誓ってくれ!!! 風花は、難波様のものだってことも誓え!!!」


「ち、誓います! 俺、野中悠真は今後一切風花ちゃんに近づきません! 何があっても、風花ちゃんに近づくことはしません!!! 風花ちゃんは、難波翠様のものです、難波様の風花ちゃんです!!!」

 本当にバイバイ、大好きだよ、風花ちゃん。


 俺はそばに居れないけど、変な人に騙されちゃダメだよ。

 俺はもう起こしに行けないけど、ちゃんと朝起きるんだよ。いつまでも、布団の中でほわほわほわしてちゃダメだよ。ちゃんと一人で起きて、歯磨きも髪のセットも……全部全部、一人でするんだよ。

 登校中に寝ちゃいそうになるのもダメだよ、ちゃんとシャキッとして学校に行くんだよ! 寝ちゃいそうになっても、もう俺は風花ちゃんの事支えてあげられないからね。風花ちゃんの腕、もう取れないからね。


 食べさせてあげられないけど、トマトもしっかり食べるんだよ、好き嫌いしちゃだめだよ。朝ごはんもしっかり食べてね、もう食べさせてあげられないけど。

 はちみつのホットケーキは食べすぎちゃダメだよ……俺が作ってあげられないから、そんなにいっぱい食べるか知らないけど。

 夜中にこっそり出歩くのもダメだよ、危ないからね! もう俺、着いていってあげられないから。夜中にお外歩きたくなっても、絶対ダメだよ、風花ちゃん!


 あと俺が……って、こんな事考えてたらキリないや。

 俺はもう、風花ちゃんの……風花ちゃんの大好きな幼馴染ですらないんだから。風花ちゃんと完全に決別するんだから……俺はもう、風花ちゃんの何でもなくならなきゃなんだから。


 とにかく幸せにね、風花ちゃん! 幸せになってね、ずっと幸せでいてね……難波ちゃんと一緒に、二人で幸せになるんだよ! 

 絶対に、絶対に……絶対に幸せになるんだよ!!!


「ふふふっ、それでいい、誓ったからな、野中! 私の風花だからな、私の風花なんだからな! 絶対に手出すじゃなんないぞ、私の風花に! わかったな、野中! 返事は!!!」


「……はい」


「ちっちゃいけど、よろしい! それじゃ、私はこれで帰るから。もう用事はないし、あんまりお前と二人きりの空気、吸いたくないからな!」


「……ちょっと待って」


「ん? なんだよ、もう用事は終わった、早く帰りたい。今日も風花とデートだからな、この後二人でデートだからな!!! 私の風花と、デートしなきゃだからな!!!」


「……俺、初めてだったんだけど。キスするの、初めてだったんだけど……難波ちゃんとキスしたのが、俺の初めてだったんだけど」


「へ~、初めて! ラブラブそうに見えて、意外とうまく言ってないのか、お前たちは?」


「……ほっといて」


「ま、野中と歩美の恋事情はどうでもいい。私が初めてなら、それはお前に呪いになってくれるかな? 私が初めてだから、他の人にも、風花にも……そう言う呪いになってくれたら、私嬉しいかな! 野中を苦しめて、風花に近づけなくなる呪い……そんな呪いになってくれたら、私は嬉しいな! じゃ、そう言う事で! 風花に近づいたら、呪い殺すよ♪」

 そう不気味な笑顔を浮かべなら、バンと力強く扉を閉めて難波ちゃんは去っていく。


 ……


 ……


「あれ、どうしたの悠真君? まだ学校でしょ、珍しいね、変な時間に? どうかした、悠真君?」


「いえ、その……声聴きたかっただけです。秋穂さんの声、聴きたくなっただけです」


「え、ホント? それは嬉しいね~、私も悠真君の声聞きたかった! あ、でもこれから授業だ、どうしよう……悠真君ともお話したいけど、でも授業も……ど、どうしたらいいかな、悠真君?」


「それは授業出てください、秋穂さん。俺との電話なら、いつでもできますから。また夜電話しますね、秋穂さん」


「うう、名残惜しい……でも分かった! また電話してね、悠真君! バイバイ、またね!!!」


「……はい。またねです、秋穂さん」

 ツーツーツー


「……ふ~」

 ……またね、か。

 出来るなら、ずっと言いたいな、この言葉……さよならなんて言いたくないな。

 誰にでもまたね、って……そうやって、言いたいな。さよならなんて、絶対に言いたくない……また大好きって言いたいな。



 ~~~


「ね、ねえ悠真君、その……今日、悠真君のお家行っていい? 風花、その、悠真君の、幸せ成分、足りなくなってきたから……だから、行っていい? 風花、悠真君のお家、行っていい? 悠真君と、甘々時間して、風花、またいっぱい、幸せなっていい?」


「……ダメ、来たらダメ。ていうか、これからも来ないで、俺の家もう来ないで」


「……え?」


「あと、風花ちゃんの家にも行かない。風花ちゃん起こさないし、朝ごはんも食べさせてあげないし、おやつも作ってあげない、学校も、一緒に行かない! もう、もう、もう……もう、風花ちゃんと俺、絶対一緒に居ない! 風花ちゃんと俺は、もう……絶対一緒に居ない!」


「……え? な、なんでそんな事言うの? なんで、悠真君……風花の事、嫌いになった? 嫌だ、悠真君に嫌われるのヤダ……悪いとこ、直す! 風花、悠真君が嫌なところあるなら、全部直す! 風花、悠真君の好きな、風花になるから……だ、だから、悠真君そんな事言わないで、何でも聞くから! 風花、悠真君の言う事、何でも聞く、悠真君の大好きな風花になるから……だから、お願い、悠真君。風花にそんな事言わないで……ベッドで甘々したり、ご飯食べたり、お昼寝したり……いっぱい、いっぱい、風花は悠真君と一緒に居たいから」


「……それじゃ、俺に話しかけないで。何でも言う事聞いてくれるなら、これから2度と、俺と話さないで……さよなら、風花ちゃん! 本当にさようなら!!!」


「え、悠真君……え? え? え? なんでなんで……大好きなのに、なんで、風花の事、なんで……悠真君、なんで、なんで風花を……風花は、悠真君が、悠真君に……なんで、なんで、なんで……」


「風花! デートしよ! 今日もデートしよ!!! 今日も風花の翠ちゃんといっぱいデートしよ!!!」


「いや、いや……悠真君、悠真君……悠真君が、悠真君が……」


「チッ、まだ……ねえ、風花! あんな奴ほっとこ! 風花の事嫌いって言ったんだよ、風花の顔2度と見たくないって言ったんだよ!!! あんな奴の事考えなくて良いって、風花の大好きは私なんだし!!! 風花は私だけの事、考えてればいいんだから!!! だからあんな奴、もう忘れて! もう忘れよ、風花!!!」


「え、翠ちゃん……あ、あんな奴とか言わないで!!! 悠真君は、風花の、風花の……そんな事言わないでよ、なんで、風花に……なんで、なんで、なんで……ナンデナンデナンデナンデナンデ……風花は、風花は……」


「……それ言いたのはこっちだ、バカ」

 ―なんだよ、なんで消えないんだよ!


 ―嫌いって言ったんだよ、風花の事嫌いって……野中は風花の事嫌いって言ったんだよ!!!


 ―それなのになんで、ナンデナンデナンデ……なんでなんで!!!


 ―死ねばいいんだ、あんな奴……ぐちゃぐちゃの、醜い死体になって、もう見たくないくらい気持ち悪い死体に……そうすれば風花、私だけ、見てくれるよね?



 ★★★

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