これは事件です!! ……か?
維 黎
リョーソン×GODEVA ドゥ クレームショコラ
「ただいまぁ」
そう声をかけながら
「な、なんだ……」
12畳ほどの半分はソファーやテーブルが置かれたリビング。もう半分には脚の長い食卓が置かれ、4脚の椅子が置かれている。壁際にはシステムキッチン。
リビングに置かれている32型のテレビでは、通販番組が今更ポータブルDVDプレイヤーの商品紹介をしている。
見れば食卓の上にあるティーカップからは湯気が立ち昇っていて、その横には黄金色のプラスチック容器の上に、焦げ茶、茶、白、焦げ茶と四層に重なった円柱のケーキ――おそらくチョコレートケーキと思われる物が鎮座していた。
すぐ横に据え置かれた銀色のフォークとわずかに削られたようなチョコレートケーキ、そして湯気を立ち昇らせているティーカップ、点けっぱなしのテレビ。
まるでつい今しがたまで人がいたかのような形跡だが
「どういうことだよ」
どう見ても食べかけのチョコレートケーキにしか見えないそれを見つめながらつぶやく。
時刻は午後3時半を回った頃。少し遅めのティータイム。学校からの帰宅は寄り道をしなければだいたいこの時間。
いつも通り。なのにいるべき人がいない。この部屋の主とも言える人物。
「――
買い物――は、除外。
時間的に行っていてもおかしくないが、鍵もせずテレビも点けっぱなし、飲みかけ食べかけのまま買い物に行くというのは考えられない。
「――回覧板。今朝、母ちゃんに頼まれた……」
学校に行くとき玄関で母親に町内の回覧板を渡された。隣の郵便ポストへ入れてきて――と。
内容は確認しなかったが、もしかして不審者や空き巣などの危険を知らせる回覧だったかもしれない。
そんなことがふと頭をよぎりつつも食べかけのチョコレートケーキから目線が外せない。
よくよく見ればケーキの一番上、チョコレートホイップに寄り添うように乗せられたチョコプレートには金字で
外観からではわからないが、削られた断面を見れば中心部にねっとりとした濃厚なチョコレートクリームが入っていることがわかる。
「どうして……どうしてだよ、母ちゃん」
嗚咽にも似た言葉が漏れる。
扉を開けテーブルの食べかけのチョコレートケーキを見つけてからの永劫とも思える十数秒間。
母ちゃん。どこ。なんで? いつから。どうして一人。
頭の中、グルグルと巡る疑問。
何かの事件性を想像させるような人の気配が濃厚な無人の部屋で、時間が止まったかのように身じろぎせず食卓の上の食べかけのチョコレートケーキを凝視する。
ジャジャー!!
突然、背後で激しく水が流れる音。
トイレのドアの開く音と共に背後には人の気配。
「母ちゃん、なんだよ、あれッ!!」
反射的に振り返りすぐさま叫ぶ。
あれとはもちろんチョコレートケーキ。
「おや? 帰ってたの。息子よ、お帰り」
「うん、ただいま――じゃなくてだッ! あのケーキは何だ!?」
「おやおや? 知らないのかい。あれはリョーソンの人気No.1スイーツであるところのGODEVA ドゥ クレームショコラという物よ。ちなみに486円(税込み)」
「なんつー
「一個しか売ってなくてね。なのであれしかないの。息子よ、残念ながらお前の分などないのだよ。おほほほーのほー♪」
「ちくしょー! こうなったら無理やりにでもあれを!」
「いいのかい。彼女のいない息子よ。当然、ちゅーの経験もないのに間接とはいえ初ちゅーがお母ちゃんでも。いいのかい! お前はそれで!?」
「うっ! それは嫌だがそれよりも俺に彼女がいないとなんで断言出来るんだ!」
「ふん、青い奴め。お母ちゃんほどにもなれば息子の女の子関連のことを知るなんて造作もないことよ。おーッほっほっほーのほー♪」
「――バケモノめ!」
「悔しかったら早く彼女でも作りなさいな。というかなんで作らないの? モテるでしょうに。お父ちゃんのDNAを思いっきり受け継いで親子そろって
「見た目が良いからってだけで好きになられても嬉しくねーよ。ちゃんと俺っていう中身を見てくれないと」
「息子よ。良いことを教えてやろう。
「身も蓋もないこというなよ、母ちゃん」
「それに高校生ともなれば生娘の
「女子すべてを敵に回すような発言はやめてくれッ! あとキャラがぶれて悪役老婆みたいになってるぞ」
その後、当然ながら息子の口にチョコレートケーキが運ばれることはなかった。
――了――
※この作品は一部、真実を元に構成されています――はぁ。食べたかったなぁ。
これは事件です!! ……か? 維 黎 @yuirei
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