Q. 冷蔵庫に入っていた食べかけのチョコレートケーキを冷凍庫にしまいますか？

Q.

　その時、二つの選択肢が浮かんだ。

　気が動転していたんだと思う。例えば火事なんかでスリッパを手に避難してしまうような感じで、私は選択肢に対して「どうでもいい」と振り払うことができなかった。

Q. 冷蔵庫に入っていた食べかけのチョコレートケーキを、冷凍庫にしまいますか？

　はい

　いいえ

　どうでもいい！

　これができなかった。だいたいあの子は、ケーキにラップもかけないまま冷蔵庫に放り込んで遊びにいったのだ。帰ってきたらどういって叱ればいいかと考えながら、ケーキにラップをかけたところだったのだ。

　その時に学校から連絡を受けたのだ。

　事故が。

　県道へ通じる路地で、車に、あの子が。

　なのに、くだらない選択肢が私をとどめた。

Q. 冷蔵庫に入っていた食べかけのチョコレートケーキを、冷凍庫にしまいますか？

　どう答えたか記憶がなかった。

　私が帰宅したのは、朝だったか、昼だったか。

　とにかく何かを食べねばならない。簡単にできる物をなにか、と冷凍庫を開けて私は、あの子の食べかけを見てしまった。

　そうか、冷凍庫にしまったのか。

　長持ちさせようとしたのか、わたしは。

　あの子が雑にフォークで切った跡が残っている。

　しかし、これをあの子が再び口にすることは、ない。

　わたしはラップを取り去り、ひやりとしたチョコレートケーキをほおばった。

　糖分だ。わたしを駆動させるエネルギーが必要だ。

　手術は終わった。

　あの子は必ず元気になって、ここに帰ってくる。

　その時に出すのは、萎びた食べかけのケーキではなく、新しくて元気なケーキでなければならない。

　わたしは手を洗い、箪笥を開け、あの子の着替えをひっつかむ。