第4話 灰色の記憶


 ――あの炎に乗ってゆけば、この星から出られるのではないだろうか。


 母親が死んだあの日。

 焼却炉で燃えていく母を見ながら、感じたのは悲しみよりもそんな空虚な思いだった。

 俺はこの星で生まれこの星で育った。父親はいない。母親が一人で俺を育てた。母親はついぞ自分の過去について語ることはなかったが、他の居住者と比較すると随分賢いように感じられた。黄金郷以外外の世界の事も人並み以上に知っているようだった。そして、俺はいつも外の話を母親にせがんでいた。


『カプティは随分外の世界が気になるみたいじゃない』


『見たことないもん。本当はお話と写真だけじゃなくて本物が見たい』


『カプティは……この星の外に出たい?』


『もちろん。お外にはココにない、いっぱい面白いモノがあるんでしょ?』


『そうね。でも辛いこともいっぱいあるかも』


『それでもいいよ。だって母さんが昔、暮らしてた場所もそこにあるんでしょ。辛くたって行ってみたいよ』


『そう……そう思ってくれるのね、カプティは。嬉しいわ。……よし、母さんと約束しましょう』


『やくそく?』


『二人でココを出て、母さんの生まれた星に行きましょう!』


『ほんと!? ほんとに母さんの星に行けるの!』


『ええ、もちろんよ。母に二言はないわ――』


 母親が焼却炉で塵となったあの日。

 その約束は破られた。

 それでもなお、俺は燃え逝く母を見ながら、心の中で夢を見ていた。

 あの炎と交われば母親と二人で、旅立てると。この星から抜け出せると。

 それは紛れもないただの世迷言だった。

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星屑のアンドロメダ 和錆真黒 @wasabi-m

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