ゆき!

「ほんとに、寒くないの?」

「うん!」

 ぼくは、半袖半ズボン。律君は、薄いシャツと上着とズボン。

 対して衣澄ちゃんと朔斗君は、スキーウェアっていうものを着ている。

「早く行こ! いちばん乗りするんだ!」

 とは言え、公園まで行くのも大変だ。

 ぼくの膝より高く積もった雪についた、車のタイヤの跡を歩くが、タイヤの跡すらついていない道もある。

「大丈夫か、真穂」

「だいじょうぶ……」

「抱っこしようか」

「だいじょーぶ!」

 ゆっくり歩いているのに、思いっきり走るよりも疲れる。

 でも、まっさらの雪に、最初に足跡をつけるのは、ぼくなのだ。

「ぅわ……!?」

 後ろで、誰かが転んだみたい。

「朔斗君、大丈夫?」

 衣澄ちゃんが、駆け寄る。

「うん、大丈夫……」

 あそこは確か、木の根っこでレンガがでこぼこしている所だ。

 雪に埋もれたでこぼこで躓いたか、足を滑らせたのだろう。

「怪我してない?」

「うん。全然痛くないよ。ありがとう」

 衣澄ちゃんに助け起こされながら、朔斗君が言う。

「そう? 良かったぁ。でも、雪塗れだぁ! あはははは!」

「ははっ、そうだねぇ」

「見えてる? 見えてないよね?」

 衣澄ちゃんが、服についた雪を払う朔斗君の眼鏡を外し、タオルで拭う。

「もう、コンタクトにしたら? イケメンなんだし。ねぇ?」

「そうだよ!」

「はぁ……?」

「元がいいから、眼鏡でも何でも似合うけどさ。偶には、ねぇ。……はい!」

 衣澄ちゃんが、綺麗になった眼鏡を朔斗君に返す。

「ありがとう……」

 いつもの顔になった朔斗君は、いつもとは違う、困ったみたいな顔をしている。

「どうしたの?」

「いや、何でもない……。うん……」

「そう? じゃ、行こ!」

「うん」

「二人とも、お待たせー!」

「ほんとだよー!」

「ごめんね」

「急ぐな。また転ぶ」

「あぁ、うん……。……わ」

「あはははははは! もー!」

 よろけた朔斗君を、衣澄ちゃんが笑いながら支えている。

「ごめんなさい、衣澄さん……」

「いいの! 大丈夫? 大丈夫だね! はい、一緒に行きましょー」

 衣澄ちゃんが、朔斗君の手を取って、引っ張ってくる。

「はやくー!」

「遅くだ」

「わ」




「わあぁぁぁああぁぁああぁぁぁぁあああああああぁああああ!」

 雪!

 雪! 雪! 雪! 雪! 雪!

「きゃあああああぁぁあああぁぁぁ! 真穂君!?」

 せっかく雪のお布団に全身埋もれたのに、衣澄ちゃんに掘り出される。

「大丈夫!? 真穂君!」

「もー、大丈夫だってばぁ!」

「あぁ、ほんとだ……」

「でしょ? あそぼ! あそぶの!」

「うん、遊ぼ!」

「ね、じゃあ、律君、衣澄ちゃん」

「ぅわ」

「わぁ!」

 律君と衣澄ちゃんと一緒に、雪の山に倒れ込む。

「おい、真穂、俺はいいけど」

 ようやっと顔を出した律君が、頭を振って雪を飛ばす。

「私もいいよ! どんと来い!」

 衣澄ちゃんの舞い上げた雪が、ぼくと律君を埋める。

「どんと、行く!」

「よし」

「来い!」

 転がり、潜り、泳ぎ、投げつけ、撒き散らし……

「朔斗君!」

「ん、なあに?」

 屋根のある所で、難しい本を読んでいた朔斗君が、顔を上げる。

「みてぇ!」

「雪だるま」

「三段!」

「わあぁ! 凄いねぇ……!」

 朔斗君が、嬉しそうに目を細める。

 雪の白が眩しいから、っていうのもあるかも。




「今日はありがとう。衣澄さん」

「こちらこそ、ありがとう。楽しかった! 風邪引かないようにね?」

「うん。衣澄さんもね」

「うん」

「衣澄ちゃん、つぎは? つぎ、いつ遊べるの?」

「ええとね、お正月明けかなぁ」

「えぇ……」

 お正月明けって、何日も後だ。

「ごめんね。私も、寂しいな」

「やだぁ……」

「ごめんね……」

「やだ! やだやだやだ!」

「真穂君、衣澄さんは、お父さんとお母さんに会いに行くんだよ」

「やだぁぁ……! いかないでええぇぇぇ……!」

「あらら……」

 涙は、雪にしみ込む前に、衣澄ちゃんが、いい匂いのするハンカチで拭いてくれた。

「ごめんね……」

「いやぁぁああぁぁ……」

「衣澄さんを困らせるんじゃない。……すまない」

「いいの。私も、本当に寂しいんだよ」

「じゃあ、いかないでよぉぉ……」

「うーん……。そしたら、お土産いっぱい持って帰ってくるから、ね!」

「やだ! やだぁぁあああああぁぁあぁあぁ……」

「真穂」

「うぅ……」

「すまない、本当に」

「いいんだって。……朔斗君は? 実家帰るの?」

「うん。明日」

「いやああぁぁぁあああぁ……」

「あらら、それも嫌なの……」

「いやだあぁぁぁああぁ……」

「じゃあ僕たちも、衣澄さんに、お土産買ってこようか」

「え、ほんとに!」

「うん」

「わあぁ、何だろう? 楽しみだなぁ!」

「ぅうあぁぁ……」

「真穂君、お土産交換だよ! 楽しみにしてるね!」

「うん……」

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