寒さ

 冬。

 寒い。

 ぎゅっとなって。

 我慢。

 春。

 あったかくなって。

 咲く。

 そんなことは、知っている。

 小説でも、何度も読んだ。

 でも、分からない。

 寒くて、ぎゅっとなって我慢するって、どんな感じなのか。

 冬を耐え抜いて、暖かい春に花開くって、何なのか。

 部屋から漏れる明かりが、真穂の寝顔を照らす。

 ついでに、半分が固体となっている雨も照らす。

 気温が低い。

 涼しい、とは少し違う。

 それは、分かる。

 冬、寒い、ぎゅっと……

 上着で、身体を縛るようにしてみる。

 ぎゅっ……

 少しきつくて、動きにくいと思う。

 たぶん、違う。

 ぎゅっ。

「ん……?」

 ぬいぐるみとクッションと膝掛けに埋もれて眠る真穂が、不思議そうに呟く。

 暖かい。

 温度、も、そうかもしれない。

 けれど、少し違う。

 とても、暖かい。

 何かの小説に、書いてあった。

 人間は生物であって、一人の人間は、生物の一個体である。

 個体とは、遺伝子のれ物である。

 遺伝子は、殖えようとするものが今、容れ物を利用し、生きて殖える活動を続けている。

 勿論、例外、バグ、不運は当然ある。

 しかし基本的に、人間という生物の脳は、生きるために必要なことをこなす。

 それしかできない。

 余計なことをしている余裕など無い。

 分かる必要が無いから、分からないのだ。

 分かる必要があるから、分かるのだ。

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