ひとり
大きな図書館に入ったらすぐに、漫画の棚へと走る。
この間の続きと、その次、そしてその次も引っ張り出す。
わ、これも面白そう。
あっちは?
新しい絵本が沢山!
ええと、これと、これと、これと――
あ。
「律君」
あ、れ……。
「朔斗君」
いない。
一人。
一人になっちゃった。
「どこ……? 律君、朔斗君……」
寂しい。
怖い。
喉の奥がきゅうっとなって、視界が歪む。
「律君! 朔斗君!」
詰まった喉を無理やり開いて、叫ぶ。
こうしたら、お迎えに来てくれるはず。
「律君……。朔斗、君……」
来てくれない。
傍を、誰かさんが、何人も通り過ぎていく。
誰も、ぼくに気付かない。
「真穂君……?」
誰……。
「どうしたの、真穂君! 何で一人なの?」
衣澄ちゃん。
大好きな声に、涙と泣き声が、勝手に溢れてしまう。
「大丈夫? どこか、痛いの?」
答えたいのに、うまく喋れない。
「そっか、そっか。迷子になっちゃったのか。朔斗君と律君の所、一緒に帰ろうね」
衣澄ちゃんと、一緒に――
「真穂君、本、いっぱいだねぇ! 私が持ってあげるよ!」
抱えていたものが、ぐっと軽くなる。
「朔斗君に電話してみるからさ、ちょっと、お外出ようか? 手ぇ繋いでこ!」
「うん……」
衣澄ちゃんの、柔らかくてあったかい手。
もう、大丈夫だ。
お外の、ぽかぽかしたベンチ。
ぷるるるっ、ぷるるるっ。ぷるるるっ、ぷるるるっ。
「出ない……?」
「うーん……、あ!」
「出た?」
「うん! 朔斗君!」
『衣澄さん?』
遠くから聞こえる、待ち焦がれた声は、息を切らしているようだった。
「朔斗君、今ね、真穂君と一緒にいるの!」
『え……?』
「真穂君が、ここにいるの」
『え、ほんとに……?』
「ほんとだよ」
『どこ?』
「図書館の前のとこだよ。真穂君と代わる?」
『え、うん……』
「はい、真穂君」
衣澄ちゃんから、可愛らしいけれど、大人っぽい携帯電話を受け取る。
「朔斗君……?」
『あぁ! 真穂君!』
朔斗君の電話越しの声、初めてだ。
少しざらざらしているから、早く会って、いつもの声を聞きたい。
『すぐ行くから! 待っててね!』
「うん、待ってる」
『待ってて!』
「うん」
切れて、静かになってしまった電話を、衣澄ちゃんに返す。
「あ! もう、来たんじゃない?」
ばたばたと、足音が近付いてくる。
「真穂君!」
走って、飛び込む。
「あぁ、良かったぁ……! ごめんね。ごめんね……!」
朔斗君に抱っこされて、また、涙と泣き声が溢れてくる。
泣きすぎて苦しい背中を、朔斗君が、優しく撫でてくれる。
「衣澄さん、ありがとう、本当に……!」
朔斗君も、泣いているみたい。
よく見えない目を開けると、律君が、朔斗君の震える肩を握っていた。
その手に力が籠って、元々白い手の関節の所が、もっと白くなる。
「迷惑を掛けて、申し訳ない」
律君が、呟くように言う。
「ううん、いいの。良かった、みんな元気で会えて……」
衣澄ちゃんも、泣いている。
「あぁ、そうだ、これ……」
ひとしきり泣いた後、衣澄ちゃんが、本の山を差し出す。
「私のカードで手続きしちゃったから、読み終わったら、私にちょうだいね」
「分かった。ありがとう」
律君が、衣澄ちゃんから本の山を受け取る。
「ごめんね。ちょっと面倒になるけど」
「いや、なんてことない。こちらこそ、申し訳なかった」
「いいんだって」
「ありがとう、衣澄さん。ありがとう……」
朔斗君がまた、泣き出してしまう。
ぼくもつられて、泣いてしまう。
「あらら……」
言いつつ衣澄ちゃんは、優しく微笑んでいる。
「じゃあ、みんな、仲良くね!」
やっと落ち着いたぼくたちに、衣澄ちゃんが手を振る。
「あぁ」
「ありがとう! 衣澄ちゃん!」
「本当に、ありがとう。衣澄さん。また連絡するね」
「うん。待ってる」
みんなで手を振り返して、歩き出す。
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