いたい

「……真穂」

 まだ寝る……。

「真穂、起きろ」

「律君、いいって……」

「起きろ」

 無理やり、身体を起こされる。

「いやぁ……」

「起きたぞ」

「起きてる?」

「ねてる……」

「起きて、る……ね。おはよう」

「んー、朔斗君、おはよー……。律君、おはよー……」

「二人とも、もう出るけど、いい?」

「あぁ」

「よくない……」

「朔斗、薬、飲んだか」

「うん」

「飲んだか?」

「飲んだっけ?」

「残り、数えな」

「うん」

 朔斗君が、向こうへ行ってしまう。

「真穂、そこ踏む前に靴履け」

「えー……」

「沢山遊ぶんだろ」

「うん……」

 仕方ないから、クッションに座って、運動靴を履く。

「飲んでなかった!」

 部屋の中から、朔斗君の声がする。

「飲め」

「うん。ありがとう、律君」

「あぁ」

 コップや水の音がして――

「ごめんね。お待たせ」

「いや」

 いつものお薬を飲んだ朔斗君が、また窓のところに来る。

「二人とも、今日は何するの?」

 ええと……

「お絵かき!」

「本読む」

「お、いいね!」

 いつものように、ベランダから跳んで、律君に受け止められる。

 車までの短い距離を、朔斗君を真ん中に、手を繋いで歩く。

「朔斗君、律君……」

「どうした」

「どうしたの」

「きもちわるい……」

 震えて、力の入らない脚が、勝手にしゃがみ込む。

「そうか」

「頭いたい……」

 心臓が動くだけで、痛くて痛くて仕方ない。

「無理しなくていいからね。律君とお留守番する?」

「嫌!」

 朔斗君は、いつもそう言ってくれる。

 けれど、それだけは、絶対に嫌。

「嫌なの……!」

 朔斗君と律君の手に寄り掛かって、立ち上がる。

「大丈夫だよ。少し、休んでいこう」

「だめ! 朔斗君が、がっこーに遅れちゃうの……!」

 歩き出すが、気持ち悪くて、痛くて、息すらうまくできない。

「大丈夫。今日は、朝早い授業は無くってね。本屋さんに行こうと思って、早く出たんだよ」

「そうなの……」

「真穂君の色鉛筆、みんな短くなっちゃってたから、買うんだよ。律君も、今ある本、全部読んじゃったでしょ」

 不思議なことに、少しだけ、気持ち悪いのと痛いのが、遠くに行った気がした。

「真穂……。よっと……」

 律君が、抱っこしてくれていた。

 とても、安心する。

「律君、僕が抱っこするよ?」

「いい」

 律君が、朔斗君の伸ばした手を見もせずに言う。

「朔斗は、荷物多いんだから」

 中身の詰まった、大きなリュックサックと手提げ鞄。

 前に、ねだって持たせてもらったことがあるが、全身の骨が折れるかと思った。

「まあ、そうだけど……」

「行くぞ」

「ありがとう、律君」



「真穂」

 律君に起こされると、朔斗君の学校の近くの本屋さんだった。

「ごめんね。眠いのに」

「ううん……」

「どれがいい?」

「うーん……」

 色とりどりのケース。大きいケース。小さいケース。

「それ……」

 濃い緑色のケースの、二十四色入り。

「これ?」

「うん……」

「いいよ。よし、じゃあ、律君のも見に行こうか。真穂君、こっちおいで」

「いいって」

「大丈夫。本、めくれないでしょ。はい、真穂君おいでー」

 渋る律君から、朔斗君が半ば無理やり、ぼくを引き剥がす。

「悪いね……」

「いいの。行こうか」

「あぁ……」

 四角い形に並ぶ四角い棚は、中身も全部四角い。

 律君に抱っこされているときよりも高い所で揺れながら、それを眺めているうちに、また眠り込んでしまった。

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