さよならプロメテウス

インドカレー味のドラえもん

さよならプロメテウス

 星が織りなす雲の海を、砂のごとき小さな点が泳ぐ。

 宙をたゆたう回遊魚の正体は、新天地を求め打ち上げられた一隻の宇宙船。

 鈍色に輝くノアの方舟は、長い年月の末コンピューターが導き出した答えによって一つの星に向かっていた。


「本当にこれでよかったと思う?」


 遥か彼方、一万光年前から届く遠い過去。

 揺らめくフレアは水面に飛び出した魚の如く半円を描き、消えてゆく。


 星を見つめる人影は、宇宙船の管理者として選ばれた血筋の末裔、眠りに着いた人類総ての代行者として種の行末を管理し見守る者達の片割れだ。


「散々人任せにして来たんだ。今更文句は言わせないさ」


 少女の問いに、姿無き男性の声が答えた。

 男性の声は船の機能を司るAIのもので、その性別は当代の管理者に合わせて変更される。


「私達は宇宙の塵だ。どこからともなく生まれて、どこでもないどこかに還る」


「宇宙から見れば、人類わたしたちの存在なんてその程度の価値しかないってこと?」


 一組のつがいとして生み出され、一つのシステムとして共に生きる。

 二人は既に十数年の時を過ごしていた。


「塵というのは、金属粉や生物の死骸、人間の皮膚などで出来ている」


 船は泳ぐ。おわりに向かって。


「どこからともなく生まれ、どこえとなく消えて逝く。けれど始まりは確かに、そこには人類きみたちの積み重ねが有るんだと私は思う」


 やがて近づくその星は、線香花火のように明滅している。


「あの星と私達は混じり合い、やがて一つになる。遠い未来、そこから生まれた次なるほしの中に、私達はきっと」


 船は泳ぐ。はじまりに向かって。


「ほんと、機械にしてはずいぶんロマンチックな話」

「君は人間にしてはリアリストだ」

 

 終わりを迎えたその星は、最後の瞬間彼方からの旅人を飲み込んで。

 新たな塵が舞い上がるよう、産声を上げた。

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さよならプロメテウス インドカレー味のドラえもん @katsuki3

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