第19話:賢治、挫折する ②

 この頃、賢治に関するある噂が出ていた。


 それは現在ランキング3位の片倉智宏の“レポートの盗用疑惑”だった。


 この噂によると先週のレポート提出時に賢治と内容がほぼ一致しており、2人の間に交友関係もないことから片倉が教室に置いてあった賢治のレポートを盗み、盗用して提出したのではないかという事だった。


 仮にこの事が事実である場合には連帯責任として片倉も賢治もこの回のレポート点と評価が無効になることから研修への参加が困難になる可能性もあるのだ。


 その後、先生が片倉を問い詰めたところ、自分の意思で賢治のレポートを盗用したことを認めたため、賢治のレポートの点数と個人評価は回復したが、片倉がペナルティとして今回のレポート点が0点になり、個人評価が1段階下がったため、彼が中間試験を受けたとしても中間審査で必要なポイント数に届かないことから海外研修のメンバー選抜のランキングに復帰することが困難な状況になってしまったのだ。


 この事を知った賢治は安心していたが、ある事実を知ってしまったことで彼は徐々に焦りが出てきてしまったのだ。


 それは現時点では彼が中間審査のデッドラインである10位以内にいたのだが、現在デッドラインの当落線上にいる特待生として入学した学生3人の獲得している点差でわずか10ポイントしかないのだ。


 これは今度の中間テストで5教科450点以上を取り、最終レポート試験の課題をSで通過しなくてはいけない事になるのだ。


 そのため、彼よりも上位にいる5人は今回の中間試験で400点以上取り、レポートの評価がB+以上で通過できることから現時点で研修参加に最も近い5人と言われている。


 しかし、この5人の最下位と賢治は15ポイントあるため、今回のテストで仮に最高評価を受けたとしても12ポイントが上限である事からこの5人よりも上位でフィニッシュすることは出来ないのだ。


 彼にとっては初めての海外研修のメンバー入りをかけたかなり厳しい戦いが2週間後に待ち受けていると思うと、彼の心臓が張り裂けそうなくらい速いテンポで心臓が脈を刻んでしまうほどのパニック状態になっていた。


 1週間後、彼の高校では“中間定期考査”第1週目がスタートし、クラスの雰囲気がピリピリしてきたことから彼の中で“このテストを頑張らないと先がない”という気持ちが芽生え始めてきたのだ。


 しかもこの学校では1週目が5日間、毎日3科目計15科目の試験が行われることになる。


2週目になると全体試験日は3日だが、経済学専攻コースは残りの2日間は研修評価対象科目の日英の小論文と国際プレゼンテーション、異文化理解などが追加されるため、主要5科目と専門科目3科目と国際関係のテストが待っている。


 実は彼にとって誤算だったのは1週目のテストよりも2週目の前半だった。


 なぜなら、今回の試験時間割を見たときに第2週1日目に“数学Ⅰ・数学A・地政数学A”というまさかの全て理系科目のプレテストで“85点・80点・75点”というクラス30人中20番目の点数を出していた科目が集まっているほか、2日目は“英語Ⅰ・貿易英語Ⅰ・政治英語I”と基本科目と専門科目の英語のテストが集まるなど彼にとっては試験勉強の進め方をどのようにすることが望ましいのか頭を抱えてしまうほど嫌な組み合わせが多いスケジュールになっていたのだ。


 そのうえ、研修評価対象科目が1週目には5科目と1日1科目程度なのだが、2週目は8科目と1日に1科目から2科目こなした上で研修試験3科目が最終日にあるため、彼にとっては運命の分かれ道であり、研修の参加権を獲得するための分岐点でもあるのだ。


 彼は初日から自己採点ではあるものの90点台を維持していたことから1週目のテストに関しては問題ないと判断したのだが、週末に翌週に控えたテストの勉強をしていたときにスランプ状態に陥ってしまい、勉強が手に付かなくなってしまったのだ。


 その光景を見た母親は“賢治、少しは息抜きしないと倒れるよ”と彼の体調を考えて提案したのだが、彼はこの試験にかける思いは人一倍強く、失敗は許されないという気持ちが強くなりすぎた結果、ご飯を食べる以外は部屋にこもってずっと勉強していた。


 休みが明け、2週目の試験が始まる朝だった。


 彼は普段通りに学校に向かったのだが、どこか心が晴れなかった。


その日のテストが終わり、放課後は自習室に入って勉強しようとした時のことだった。


 自習室は学年で分かれていて、各学年で譲り合いながら使う事になっていたが、その日は翌日が成績算定の重要科目であったことから、普段よりも普通コースの生徒たちが多く集まっていた。


 その中に受験の際に席が近かった男の子がいた事に気付いた。


 賢治は目を疑ったが、よく見ると間違いなく一緒に受験をした彼だったのだ。


 賢治は下校時刻まで自習室で勉強し、彼も同じぐらいまで勉強していた。


 翌朝、彼が高校に登校しようとした際に学校の周りが物々しい雰囲気になっていた。


 彼は何事かと思い、学校の前の交差点に差し掛かったときに何が起きたかを察した。


 彼が見たのはフロント部分が凹んでいる普通車と吹き飛ばされたバックと本人がはいていた靴が散乱している道路だ。


 その後、警察関係者による誘導と共に学校に入るための迂回路が設けられ、そちらを回って学校に入ったのだが、現場周辺ではびっくりして腰を抜かしている生徒やその子の友人だろうか、歩道で警察の人から状況を聞かれている光景も見えてきた。


 学校に入ると先生たちが“本日は指示があるまで教室で待機し、自習をしていてください”という張り紙を生徒の玄関口に貼る作業と放送が行われていた。


 彼は教室に入ると気持ちを落ち着かせてから勉強を開始した。


 まだ今回のテストは筆記試験があと8コマ、実技試験が3コマ、インタビューが1コマ残っている。


 このあと彼は予想もしない展開を目の当たりにすることになった。

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