第18話:賢治、挫折する ①

彼の高校は入学式が4/8だったが、コース限定ではあるが、入学前説明会が4/5にあった。


 この説明会は各市区町村および都道府県の議会や海外のユースカンファレンスに参加するために必要なカンファレンス用制服の着用確認と校則に規定されている長さとの調整、入学式の流れ、クラス分けなどに加え、今年度の出張計画の説明と必要費用の説明などが行われることになっていた。


 当日は入学予定者が全員集まったが、保護者は途中参加の家庭も多く、学校側としては子どもたちに向けた説明を先に行い、保護者に対する説明をあとから行う事にした。


 まず、子どもたちが入学に向けた準備と入学後に必要な用品に関する説明を受けるためにA4サイズ20枚程度の冊子が配られた。


 この冊子には入学後のオリエンテーションの資料の内容ではなく、特待生と準特待生に向けた内容と一般学生に向けた内容が書かれているため、同じ説明でも1人1人異なる意味合いを持つことになるのだ。


 冊子を開いて書かれていたのは“地元議会及び府議会への参加について”というこの高校で毎年恒例になっている行事についての説明だった。


 この行事は参加する人数が限られている事でも有名で、昨年は特待生のみが参加し、一昨年も特待生は無条件、準特待生と一般学生は特待生と同等の成績上位者のみというかなり厳しい条件を突きつけられていて、会期毎にメンバーは替わるのだが、メンバーがあまり変わらないとい状況から学生から“行事のマンネリ化が進んでいる”と不満が出てくることもあった。


 そのため、今年からは特進クラスの生徒と特待生が参加できるように検討しているというが、特進クラスの生徒で条件に該当するのはクラス上位5人しかいないという事態になっており、この行事をどう見直すかを考える先生たちも頭を抱えていたのだ。


 特に前年参加していた学生がフィードバックで挙げていた課題のなかに“集団的優越性が過剰になっている”という意見があったことから、本来の学習目標が達成出来る状況になっていないという現実を突きつけられた事も今回内容変更のきっかけにつながっていたのだ。


 その他にも今学期の行事一覧として学期末にイギリスの大学の経済学部との交流プログラムでロンドンとオックスフォードに、夏休みにワシントンとニューヨークにそれぞれ学生交流プログラムとして訪問することが決まっているため、あとは5月中旬に学年会において参加者の選考が行われ、この学年会で誰が行くことになるのかが決まると5月の下旬には参加者に対する通知が行われ、6月からは現地の学校とオンライン交流会や渡英・渡米前研修が始まる。


 それまでの約1ヶ月半はお互いがライバルとしてかなりし烈な争いを繰り広げることになるのだ。


 ただ、今回は成績だけではなく、毎週月曜日に提出する“テーマレポート”の評価がポイントとして加算され、そのポイントと成績、社会活動評価、プロジェクトプレゼンテーション評価で順位を付けられたものが選考基準の1つになるのだ。


 これは今年から始まったもので、学校も今までのように成績だけで判断するのではなく、多角的な評価を導入して、1人でも多くの生徒に経験する機会を与えたいという話も出ていたため、試験的に実行することにしたのだ。


 しかし、賢治は特進クラスでは上位に入ることが出来ておらず、参加をするにはもっと上位に入らないと参加することが難しい状況だった。


 そして、最初の月末テスト週が翌週に迫っていた。


 この月末テストは通常ポイントに加え、上位5位までに入るとボーナスポイントとして2ポイントから10ポイントが入る事になっている。


 そのため、彼はこのポイントを獲得することで選抜競争の上位に上がることになり、プログラムの研修に参加できる権利を手に出来る可能性もあるのだ。


 しかし、入学後の最初のテストでは特進クラス30人中10番目とポイントを獲得することが出来なかった。


 ただ、入学時にB合格だったことからポイント面では有利な状況になっている事には変わりないが、最終的には毎週提出しているレポートの評価割合が大きいため、彼はこれまでA評価をもらっていたという自信があったことから安心はしていた。

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