7-3(完結)

そこは、中世風の豪壮ごうそうな西洋館。

吹き抜けの舞踏ホールのド真ん中に、双子は立っていた。


窓の外は、あざやかな緑の森が広がっていて。

木漏れ日が窓ガラスを通して、まばゆく透きとおった光彩をキラキラとふりそそぐ。


周囲には、舞踏会のゲストたちが、浮かれた声で談笑をはずませている。

黒い蝶タイにダークカラーの燕尾服えんびふくを身につけ、ウサギの耳を模した飾りがユニークな漆黒しっこくのビロードの仮面をつけながら。

燕尾えんびの背中のスソの中心には、フサフサとしたまん丸い白いシッポも揺れている。


千影ちかげは、もう一度「パチン」と指を鳴らした。

とたんに、双子の衣装も、洗練された墨色すみいろのドレスシャツに、仕立てのいい真っ白いスーツ、ネクタイ姿へ早変わりする。


同時に、ザワザワとしたアイマイな人いきれだけがBGMだった舞踏ホールに、突如としてフルオーケストラの音楽が鳴り響きだした。

ハチャトゥリアンの『仮面舞踏会』……豪華絢爛ゴージャスで幻想的な『ワルツ』。


陽向ひなたは、無邪気に感嘆かんたんの声をあげた。

「スゴいな。千影ちかげが一緒なら、どんな夢でも見せてもらえる」


「っても、夢の"資材"は全部、陽向ひなたの潜在意識の中にあるイメージだけだけどね」


「じゃあ、僕が想像力をはたらかせれば、もっとスゴい景色も見られる?」


「もちろん! どんなブッ飛んだ世界だって見せてやるよ」

赤みがかったトビ色の大きな瞳を、子供のように無邪気にキラめかせながら、千影ちかげは、白い手をスッとさしだした。

―――自分自身の夢を見れないのは、皮肉だけどな……

と、こっそり自嘲しながら。


双子の兄のその心の声に答えるように、

「夢を指揮するのが、キミの領分りょうぶんだものね」

と、陽向ひなたは、すべらかな手をつかんで、しっかりと握り返した。


千影ちかげは、満足そうにニンマリと微笑んだ。

「目を覚ますのがイヤになっても知らねーぞ?」


「それは、ちょっと困るかな」

陽向ひなたは、言葉とはウラハラに嬉しそうに、クスリと鼻を鳴らした。


壮麗なメロディーの中、美しい双子の兄弟は、真っ白くツヤめく靴を踊るようにはずませながら、華やかに笑いさざめくウサギたちの間を軽やかに走り抜けていった。




=== オワリ ===






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夢迷宮のウサギたち こぼねサワァ @kobone_sonar

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