チラシ配りの職業病
すでおに
チラシ配りの職業病
数々のアルバイトを渡り歩き『流浪のフリーター』を自称するわたくしは、アルバイトだから、でもないのでしょうが、職業病とはあまり縁がありませんでした。せいぜい腰痛を発症した程度で、病院に通ったり薬に頼ったりはありません。
そもそも職業病とは何か。おそらくは、同一の行為を習慣的に繰り返すことによって負荷が一部位に集中して異常をきたす。あるいは、身体に染み付いた習慣が業務外にも露出する。と言ったところでしょうか。
野球のピッチャーが肘や肩を壊すのは前者で、ダウンタウンの浜田さんがトイレで隣り合った赤の他人のおならに「おい!」とツッコンでしまったエピソードは後者に当たります。
広義で言えば指先にできるタコも職業病と言えるかもしれません。役者が舞台上でセリフを忘れる夢にうなされたり、アイドルが握手会の前日にお腹が痛くなるのも職業病と言えます。銀玉が一杯につまったヒノマル弁当を食らう夢をみるパチプロはどうでしょう。
客として入った店で「いらっしゃいませ!」とつられて言いそうになるのも立派な職業病です。万が一そういう人を見かけても、何事もなかったように通り過ぎましょう。
私は以前チラシ配りをしていました。道行く人に配布するスタンディングスタイルではなく、家々を回って郵便受けに投函するウォーキングタイプでした。
決められたエリアを巡回してポストに投函するのですが、中には投函NGの家があります。「チラシをいれるな」とクレームの電話をかけてきた人は投函NGパーソン、TNPに指定されます。業務開始前に配布エリアを巡回してTNP宅を確認させられ、絶対に投函しないよう釘を刺されました。TNPは私が作った造語です。
他にも「チラシお断り」の札が貼られた家もNGです。マグネット式の札が市販されているぐらいですからチラシを毛嫌いする人は多く「チラシを入れたら着払いで送り返します」という貼り紙を見たこともあります。
要らない人にはゴミ同然で、それをポストに入れられたら怒るのもごもっともです。庭でゴミを焼却し、ついでにアルミホイルで包んだ芋を焼いた昭和は遠い昔になりました。
余談ですが、夏場は額ににじむ汗で指先を濡らしてチラシを摘んでいました。潔癖症が聞けばぞっとするでしょうが、唾でやっている人もいるはずです。唾液のことが嫌いなら、チラシのことも嫌いなるでしょう。
チラシ配りには職業病がありました。これは中々興味深いというか、それまでの人生で経験したことがなく、そういった話を聞いたこともありませんでした。しかしきっと私だけではないはずです。
チラシ配りを始めて3日目の事でした。その時は仕事ではなく、普通に道を歩いていました。そうしたら、普通に前を向いて歩いているのに、無意識に目がきょろきょろと左右に動き、道の両側に並ぶ家のポストを探したんです。チラシを持っていないにもかかわらず。腹を空かせた爬虫類のようで、我ながら気持ち悪かった。ポスト酔いしそうになりました。
その後もチラシ配りは続けましたが、たった1日限りの奇妙な出来事でした。
チラシ配りの職業病 すでおに @sudeoni
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
初詣いきますか?/すでおに
★0 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
コンビニ多すぎませんか?/すでおに
★0 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます