二.出会うヒーロー③

「ははは! フウのやつ、そんな風に言ったのか! ……ってあ、これ、もしかしてダジャレになった?」

「そのダジャレすごく面白くない……」

 ハルはため息をついてから椅子の背もたれに思いっきり全体重をかける。

「ヒーローが嫌いって何⁉ じゃー何でヒーロー症候群なんかかかったわけ⁉ 何でヒーローやってるわけ⁉ もー意味わかんない!」

「まあ、ヒーローになりたがるやつが『多い』からお前たちがヒーローとしてやってるだけで、全員が全員、ヒーローになりたいわけじゃないからな〜」

「そうなの?」

「そうだろ」

 ピリピリ、とサカタがコンビニで買ったと思われるサンドイッチを開封するのを横目に、ハルは呟く。

「……てっきり、ヒーロー症候群になった人は、皆ヒーローになりたいのかと思ってた」

「それは傲慢ってもんだろ。ハル。自分がそうだから他人もそうって言うのは、勝手だ」

「ごーまん?」

「……驕り高ぶって、人を見下すこと」

「私、人を見下してないよ?」

「……お前はそうだろうなぁ。でも、お前にそのつもりがなくてもって話だ」

 サカタはサンドイッチを頬張ってから飲み込んで、ハルを見て言った。

「自分にそのつもりはなくても、他人を傷つけることはあるんだ。それで人間関係が変わってしまうこともあるし、いちいち気にしていたらきりが無いとも思うが、気にしていかないといけないものだろ」

 色々な人と付き合って生きていくんだから。とサカタは言う。ハルはぱちくりと瞬きを繰り返してから言った。

「……サカタの言葉、難しくてよくわかんない……」

「……お前はそういうやつだよ……」

 サカタは再びサンドイッチを頬張る。タルタルソースが、サカタの顎のラインを伝って落ちた。

 ハルが何か拭く物を探していると、横からスッとハンカチが差し出される。ハルが振り返ると、そこには昨晩の彼……フウが立っていた。

「……サカタさん。これ、良かったら」

「ああ、ありがとう」

 サカタはフウの手からハンカチを受け取って、自分の顔と服に落ちたタルタルソースを拭う。そして洗って返す、と言って、ポケットにしまった。フウは別にいいのに、という顔をしていたが、厚意には逆らえないのか、特に何も言わずに頷いた。

「……サカタとフウって知り合いなの?」

 ハルの素直な問いに、サカタは首を横に振る。

「いんや。ここら辺の配属になるって聞いてからフウが挨拶に来たから、ちょっと話しただけの関係」

「……何でそんな仲良さげ?」

「お前と違ってサカタさんは年長者だし、話が通じる」

「私だってここにずっと長くいるんだから先輩だもん! っていうか、私だって話通じるじゃん!」

「……そういうところだ」

 フウは盛大なため息をつく。

「サカタさんの話が難しくてよくわかんないって言ってる時点で、馬鹿なんだよ」

「何ですって〜っ……⁉」

「ちょっ、ストップストップ。ハルが本気で掴みかかったら、フウの首があらぬ方向にねじ曲がるでしょ」

「ぬぬぬ……」

 サカタに背後から羽交い締めにされ、ハルは大人しくなる。フウは少しも驚いたりせずに、ただ呆れたようにため息をつくだけであった。

 すると背後でFAXを受信した音が響く。サカタがハルを解放してからその紙を受け取ると、二人を振り返った。

「……二人とも、仕事だ」

「おっ⁉ 来た来たー!」

「……」

 その紙をサカタの手から受け取ろうとしたハルの背後からフウがその紙を奪い取る。ハルの手はスカッと空を切り、思わずハルは前方に倒れた。

「ちょっ⁉ 何するのよ⁉」

「俺が見た方が絶対に早い」

「……って、先に行くなー!」

 既に交番の外に出たフウの背中を、ハルは慌てて起き上がって追う。これは俺一人で十分だ。いやいや、それを言ったら私一人で十分だって! と会話しながら去って行く二人の背中を見送りながら、サカタは一人、机に頬杖を付きながら呟いた。

「……大丈夫かなー、あの二人……」

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ヒーロー症候群 秋野凛花 @rin_kariN2

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