二.出会うヒーロー②
ハルはヒーローだ。
ヒーロー症候群を発症した、とある普通の女子高校生である。
彼女は昔から、ヒーロー番組を見ることが好きだった。テレビの中のヒーローは、助けを求めて困る人を助け、時には食料を分け与え、悪を許さず、倒し、様々な人から感謝をされ、歓声をもらい、尊敬の視線を向けられる。
格好良かった。彼女自身も、ヒーローになりたいと強く夢を見た。
だからこそハルは、中学生の時にヒーロー症候群を発症した時に、驚きつつもそれはそれは喜んだ。
勉学や友人との関係も変わってしまった。しかし、あの憧れのヒーローになれると思ったら、どんな苦しいことでも乗り越えられたのだ。本名から「ハル」というコードネームをもらい、増強された身体能力を活かして、彼女はヒーローになった。
ちなみにサカタは昔からの顔見知りで、ハルはよく怪我をしていたり小さな問題を起こしたりしていたこともあり、小さな時から何かと面倒を見てもらっていた。それにヒーローに憧れるハルにとって、身近にいるヒーロー……交番に務める警察官は、憧れの存在だった。
今は、少し口うるさい近所のお兄さん、程度の認識だが、憧れていることに変わりはない。ハルがヒーロー症候群を発症した時も、何かとサポートしてくれた、お人好しなのも好感が持てていた。
ハルはパトロールがてら、夜の街をぶらぶらと歩いていた。ヒーロー症候群を発症すると、人間の三大欲求を満たさなくても充分なことが最近発覚したらしい。とあるヒーローが、睡眠、食事、性処理、全てを規制されてもケロリとしていたようだ。ヒーローになってからもいつも通りの生活を続けている人が多かったため、発覚が遅くなったらしい。
だからハルも寝たり食べたり……性欲はまだまだよくわからないが、とりあえずその二つを満たさなくても至って健康に過ごすことが出来た。疲れてもすぐに回復する。ヒーローってすごい、と割と適当に考えていた。
ハルは街頭を見上げる。光で集まった蛾が、必死に食らいついていた。
ハルはしばらくそれをボーッと眺めてから、再び歩き出す……その背中に、声が飛んできた。
「お前は無駄が多いな」
周りに人気は無い。ハルは自分に言われた言葉だと悟り、振り返った。
もう一つ向こう側の街頭の下。ハルと同い年くらいで、顔にガーゼを貼った男子が、ハルを睨みつけるように見つめながら、立っていた。
ハルは体をその男子に向ける。そして首を傾げた。
「……誰?」
「……」
男子は無言で何かを差し出して見せた。それは街頭の光でキラリと反射する。ハルは思わず、あっ、と声を上げた。
「ヒーローバッチ……!」
「……お前と同業者ってところだ」
不本意だが。とその男子は呟く。そして彼はヒーローバッチを懐にしまってから、腕を組んだ。
「俺のコードネームは、フウだ」
「あっ、私は……」
「知ってる。……ハルだろ」
「何で知ってるの? ……あっ、もしかして、私のストーカーとか……?」
「誰がお前なんか付けるか」
彼……フウはそう言ってため息をつく。心底呆れているようだった。
「お前に接触するにあたって、下調べをしただけだ」
「……やっぱストーカーじゃん」
「お前自分が恋をされるような人柄だと本気で思ってるのか? それなら生粋の馬鹿だな」
「なっ⁉」
初対面であるはずのフウにばっさりと言われ、色々鈍感なハルでさえ思わずムッとくる。言われっ放しも嫌なハルは、思わず言い返した。
「馬鹿って言う方が馬鹿なんだもん!」
「……それ言い返したつもりか?」
フウは再びため息をつく。それを見てからハルはふと、先程フウが言っていた言葉を思い出した。
「……私に接触するにあたってって、元々私に近づくつもりだったってこと?」
「……ああ」
「何で?」
ハルの言葉にフウは少し黙ってから、一つ一つ言葉を選ぶように言う。
「……この辺りを、担当することになった。いわば、同僚ってところだな。同業者で一緒に仕事をするはめになるなら、そいつを知っておくことは大事だろ」
「……そんなの、一緒にやる上で知っていけばいいじゃん」
「人の見せる面なんて、宛にならない。自分で調べて選んだ情報の方が、よっぽど信用できる」
フウの言葉に今度はハルが黙って、それから声を絞り出す。
「……あんた、絶対、友達いたことないでしょ……」
「必要ないからな」
フウはあっさりそう言ってから、ハルに背を向ける。
「えっ、どこ行くの?」
「帰る」
「そっちから話しかけておいて⁉」
「顔合わせは済んだから、もういいだろ」
あ、そうだ。と言ってフウは再びハルの方を見る。何を言われるのかとハルが身構えていると、フウははっきりと言った。
「俺は、ヒーローなんて嫌いだ」
だから、その無い頭に入れとけよ。とフウは言い放って去って行く。その背中を見送りながら、ハルはワナワナと震える。そして。
「っ……はあああああああ⁉」
思わずそう大声を上げて、その後でまたサカタに怒られてしまうのだった。
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