式日

草森ゆき

式日

 火葬場から立ち上る煙を見上げたのは五年前で、あいつも燃えたりするし死んだりするし骨がカサカサになって出てきたりするし、いつの間にやら墓石なんてものも用意してたりするんだなあと感心したもんだけど、一年はなんとなく過ごして二年は部屋が異様に広いなと気付いて三年は独居用のアパートなんか探してみて四年は結局同じところに住み続けて五年、五年経っておれは同じ銘柄だった煙草が廃盤になる記事を読んで驚いてカートンを買い占めに行き、十カートンは抱えながら帰宅して扉をくぐった途端にほっとして「ただいま」と声をかけたところで返事は一生返ってこなくて、沿線を走る列車の規則的で日常的な音がひたすら独りな部屋を通り抜けておれを真っ直ぐ突き刺した。ああ死にてえ。

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式日 草森ゆき @kusakuitai

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