第15話 ギルドマスター

「昨日は酷い目に遭ったわ」

「それは僕のセリフだよラクス。家は半焼するしゾンビには襲われるし」

「でもさすがアランだ。朦朧としてあまり覚えてねーけど意識を失いながら勇者の力でゾンビを全部やっつけるとはな」

「ハイドとはできが違うのよ。見直したわ」

「私もエミリさんと同じくそう思います。ただ……聖剣が燃えつきてしまったのは残念ですね」


 ダイヤの盾の面々は冒険者ギルドの応接室にいた。

 昨日ダンジョン内で起こった聴衆を受けるために来たのだが、話はもっぱらその後アラン宅で起こった出来事についてだ。


 彼等はゾンビの群れから生き残ることができた。

 アランが持つ勇者の力のおかげ……と思い込んでるようだが、実際は盗んだメモリーソードのおかげだった。


 メモリーソードはアランの家でを喰った。


 その結果、魔力を失ったゾンビ達は跡形もなく消滅した。

 魔物や魔族といった【魔】のつく生き物は魔力なしではこの世に存在できないのだ。

 逆に言えば人間は魔力がなくても生命力があるので生きていける。その為アラン達は気を失いつつ生き延びることができた。


 【魔力喰いの森】が魔力を奪い命を落とすという噂はあったものの、実際に魔力がゼロである唯一の人間メモリーが生きている時点で迷信にすぎなかった。


 しかし、メモリーソードを盗んだ代償が大きいことに彼等はまだ気付いていない。

 人から盗んだ物を使おうとすればそれ相応の報いを受けるということに……


 * *


「では元リーダーであるメモリー様がトラップ魔法を使ったと?」

「そうだって何度も言ってるじゃねーか。俺は見たんだ」

「ふむ……まずはハイドを牢屋にぶち込んでおけ!」

「ちょっとなにするんだ!離せこのヤロー!」


 屈強なギルド職員に押さえ込まれハイドは牢屋に連れて行かれた。


「ギルドマスターをあまり舐めるなよ?ダンジョン内のトラップ魔法からお前の魔力を検知した。そもそも彼には魔力がない。魔方陣を完成させるのは不可能だ。誰よりもキミらが知ってるはずだが?」

「はい。ハイドが独断でそんなことをしてたことに驚きを隠せません……」

「まさかアイツがそんなことを……」


 神妙な面持ちでわざとらしく俯くアランとエミリ。セシルは複雑な表情を浮かべるが黙っていた。


「私達の監督不行き届きは認めるわ。でもそっちはどうなのよ?アイツはアランの聖剣を盗んだのよ!」

「これはこれは、ウェンブリー家のお嬢さんですか。お父様にはいつもお世話になっております」


 魔法騎士団の団長を務めるラクスの父と冒険者ギルド長である【クライン】は仕事の性質上、親交があった。


「残念ながらそのような事実はギルドで確認されておりません。聖剣とは……初耳ですな。新しい武器を使用する際はギルドへの申請が必要となるはずですが、アランさんは届けを出されていらっしゃいますか?」

「ぼ、僕が……勇者の僕が使う剣はどれも聖剣と同じ力を持つ。盗まれたと思っていたけどもう一度よく探してみるよ」

「それがよろしいかと。最近メモリー様は新しい剣を正式な手続きで申請されましたから」


 冒険者は犯罪防止対策の一環としてギルドに使用する武器を申請する義務がある。アラン達の武器も申請しているのだが手続きはすべてメモリーが一人で行っていたのだ。


「もういいわ!それよりSランク昇格の方はどうなってるの?」

「今回の不祥事もございますので……昇格試験を受けていただくことになりました。まあ形式的なものになりますのでC級冒険者でもクリアできます」

「僕らを馬鹿にしてるのか?ダイヤの盾は全員がA級以上だ!」


 珍しく声を荒げるアランに仲間も少し戸惑っている。


「アラン落ち着いて。わたし達なら落ちるはずもないしリハビリがてら指示に従いましょう」

「……そうだね。取り乱してすまなかった」

「こちらも規則を押し付けて申し訳ありません。それではお出口までお送りしましょう」


 席を立ち応接室を出てギルドマスターの先導により出口へと向かった。


 神のイタズラだろうか?


 ちょうどその時、ある人物が入ってきた。

 魔力もない無能と呼ばれている人物【メモリー】その人だった。


 * *


 冒険者ギルドが急になんの用だろうか?


 魔石の換金は昨日アンナにお願いしたし、いまはあまり目立ちたくない。その為、緊急クエストの報告はしなかった。

 俺はすぐに消えたから救助者達は自力で脱出したことになってるはずだし……


 不安だけが頭をよぎる。冒険者ギルドにいい思い出などないからだ。


「アンナは良くしてくれたが、散々馬鹿にされてきたからな」


 どんなに頑張っても『パーティーメンバーのおかげ』と一蹴される日々が続いた。

 それどころか寄生虫とまで言われたこともある。


『悪いことは何ひとつしてないんだし入りましょう』

『そうだな。入り口であれこれ考えても仕方ないか。早く終わらせて約束通りケーキでも食べに行こう』

『いぇーい!!』


 あれだけの活躍をしたのにケーキだけとは。謙虚かよ。


 ギルド内に入り受付をすまそうとした時だった。


「やあメモリー。無能なキミがいったい何の用でギルドに来たのかな?」

「給料の前払いでもお願いしに来たのよきっと」


 どうしてコイツらは俺を放っておいてくれないのだろうか?

 過去には決別を済ませたから俺からお前らに用はない。


 ここで意外な人物が助け船をだしてくれた。


「これはこれはメモリー様、わざわざギルド本部までお呼びだてして申し訳ありません。わたくしギルドマスターをしております【クライン】と申します。以後、お見知りおきを。ギルドマスター室へご案内しますのでどうぞこちらへ」


 メモリー……様?


 ギルドマスターと面識はない。お会いするのもこれが初めてだ。それなのにこのVIP待遇。逆に怖いんですけど。


 これを見ていたラクスの不満が爆発した。


「ちょっといい加減にしなさいよ!さっきから聞いてればメモリー様、メモリー様って。貴族の私やアランよりそんな平民相手にへーこらしてどーゆう神経してるの?」

「……なるほど。お父様から何も聞いていないようですな。でしたら私からは何も申し上げることはできません。さあメモリー様どうぞこちらへ」


 ギルドに家のことがバレたか。

 すでに追放されてるし俺には関係ないけどな。


 おいおい、お前らそんなに睨むなよ。

 俺はごく一般的な普通の庶民なんだから。

 でもコイツらの前で優越感に浸るのもありか。


「ああ、よろしく頼む」


 偉そうにするのってこんな感じ?全然俺は偉くないから気が引けてきた……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る