第14話 不幸の始まりです③
ラクスを除くダイヤの盾のメンバー達はアランの家に集まっていた。
「アランの家って想像してたより――いや、なんでもない」
普段は無口のガンツが小さくつぶやいた。
すぐに口を閉じたものの部屋を舐め回すように眺めている光景はなんとも不気味だ。
「ほら、こっちに引っ越してきたばかりだし報酬は無能なあいつにピンハネされてたから」
「この小屋の話なんてどうでもいいわ!それよりこれからどうするのよ!?」
「小屋ってそれはちょっと……」
わざわざアランの住んでいる小さな家に集合していたのには理由がある。
ダンジョンに仕掛けてあったトラップにより全てのパーティーが今日の探索を諦めるしかなかった。
正確にはメモリーだけがダンジョンに残っていたが、無能と見下していた彼など誰も眼中にない。
これだけ大規模なクエストだ。強制的にダンジョンの外へ排除され多くのパーティーがあるパーティーを疑いだした。
最初に入った「ダイヤの盾」が報酬目当てでトラップを仕掛けていたのではないだろうかと。
5分間隔という短い時間で冒険者パーティーが入ったにもかかわらず、ダイヤの盾を見た者が一人もいないのはおかしい。そう結論付けた時だった。
「ダイヤの盾が戻ってきたぞ!」
誰かが叫ぶ。ギリギリのところで彼らは運良く?戻ってきたところだった。
当然、中の状況やトラップのことをすぐに聞かれそうになったのだが、ダイヤの盾のメンバー達は見るからにボロボロ。おまけにラクスの姿までない。
ペース配分を無視してまでダンジョン攻略を頑張っていたのかもしれないと勝手に勘違いされた。
そこで聴取は明日に持ち越されることとなり、唯一中心部から離れた郊外に住んでいるアランの家に身を寄せて対策を講じようと考えたのだ。
「ラクスさん……大丈夫でしょうか?今からでも冒険者ギルドに救出依頼を――」
「馬鹿言うな!いま冒険者ギルドに調べられたらそれこそ俺たちはお終いだ」
盗賊のハイドに良心なんてものは存在しない。もとより貴族がどうなろうとどうでも良かった。
「僕が本来の力を発揮できなかったばかりにすまない」
元々そんな特別な能力を持っていたわけではないのだが、そのことに本人すら気付いていなかった。
勇者は他の職業に比べて最初から基礎能力が高い。スタートから他を一歩リードしている。
しかし、そのアドバンテージをいかに伸ばしていくかは本人次第である。
アランは【勇者】という職業に酔いしれて、自分を磨くことなどしてこなかった。
「これを奪われてたから仕方ないわ」
その声に誰もが驚いた。見捨てたはずの聖女ラクスが姿を現したのだ。
「ラクス、僕はキミが戻ると信じていたよ。ところでこれはなんだい?」
「あなたが奪われた聖剣を取り戻してきたわ。これで力が戻るはず」
1本の剣がアランに手渡された。もちろんアランはラクスが何を言ってるのかわからない。それでも一応頷いて「ありがとう」と感謝の言葉を口にした。
その言葉にニッコリ微笑んだ直後――
「あなた達のしたことは知ってるわ。私を見捨てたことも忘れてない。ギルドや他の冒険者に色々バラされたくなかったら一生言うことを聞いてもらうから覚悟しなさい!」
主にハイドへ向けて発せられたわけだが誰も言い返すことはできなかった。この件がアランの計画だと知ればこの聖女は何をするかわからない。黙っていることだけが自分の身を守れると思ったのだ。
「これが聖剣――これは僕の聖剣だ!」
アランもまたラクスに調子を合わせる。
助ける気など元からなかったのだが、伝説の武器まで貢いでくれる女はそうそういない。
ただしその伝説の武器がメモリー専用なのも知らずに。
現在のメモリーソードは七色の光を放っていない。
それどころか不気味な黒光りをしていた。
正当な主人の手に収まっていないのだから当然だろう。
「この剣はやっぱり凄い!なんかこう体の奥からぐっと湧き出てくる感じがするぞ!」
口からでまかせを言ってるのだが、アランの言ってることはあながち間違いではない。
なにせ体内にある魔力をメモリーソードが吸収しているのだから。
「アイツが凄いんじゃなくてやっぱその剣のおかげだったのね……いいえ、ただの独り言よ。正当な剣の所有者である勇者が持つと違うわね。私まで体に変化がでてきたわ」
「そういえば俺も言葉じゃ表現できないムズムズっとした感じがするな」
ラクス、ハイドを始めメンバー全員が訳の分からないことを言う始末。もちろん魔力が少しずつ奪われていることに気付いてない。
「今の僕らならどんな魔物が相手だろうと負ける気がしない。そうだ!メモリーがこの剣を持っていたのならダンジョンで起こったことをすべて彼のせいにしよう。僕の大事な剣を盗んだ報いを受けるべきだ!」
「それがいいわ!みんなもそう思うでしょう?」
「アランが決めたなら異論はない」
「俺も賛成だ。ここまで魔力に影響を及ぼす剣を盗むなんて盗賊みたいなやつだ」
もちろんメモリーは盗んでなどいない。自分の剣なのだから。
「今度はダンジョンボスだろうと負ける気がしないわね。早く魔物と戦ってみたいわ」
ちなみにダイヤの盾は『中ボス』にも歯がたたなかった。
ダンジョンボスに辿り着く実力などない。
「すぐに戦えるさ。この勇者アランの手に聖剣があるかぎり!アッハッハ」
アランが上機嫌で高らかに笑ったその時だった!?
早く戦うことを臨んでいたメンバー達の前に、1体のゾンビが現れた。
「へ?」
「ブッ!?」
「キャー!ゾンビですー!」
「あ、慌てるな。ゾンビはアンテッドだから火属性に弱い。エミリ、ファイアーボールだ!」
ダンジョンで的確な判断とリーダーシップを発揮できなかったアランが汚名返上とばかりに指示をだした。
しかし彼は忘れていた。ここはダンジョンなどではなく賃貸で借りている自分の家だということを。
「あ!やっぱり待ってーー」
「オーケー!ファイアーボール!」
止めようとしたが時すでに遅し。
エミリは呪文を唱えファイアーボールを放った。
しかし……
自信満々にゾンビへ放たれたファイアーボールだったのだが、ボールどころか焚き火の火種ほどの小さなものでゾンビに当たる前にポトリと地面に落ちてしまった。
「なっ!?どうなってるのよ!?」
あまりの威力のなさに動揺するエミリ。
「な、なにするんだ!カーペットが燃えてるじゃないか!」
急いで火を消そうとするアランだが、安いカーペットほどよく燃える。
「そんなことよりゾンビが襲ってきたぞ!俺の魔法のナイフもまったく効かねえ!」
ハイドは狼狽えガンツはアランの火消しを手伝っている。
セシルは泣きじゃくりもはやカオスと化していた。
しかし、それだけでは終わらない。
なんとゾンビが次から次へと家の中に現れたのだ。
「も、もう無理だ……」
「俺も……」
「わたしも……」
魔力欠乏症によってダイヤの盾のメンバーたちは、やがて全員が意識を失った……
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