第13話 救出

「ふ~ん、ねえ」

「おう」


 最終階層の20階を探索している俺とマオの会話である。


 冒険者ギルドへ救援要請をしたのは、シャルル=メルノア皇女が率いる【メルノア公国】の一行だった。

 俺の住んでいる【エステリオ王国とメルノア公国】は和平協定を結んでおり良好な友好関係を築いていた。


「あの子がお姫様なのは一目瞭然だから理解できたけど、その『もと!』婚約者が冴えないメモリーなんて未だに信じられない」

「小さな頃に親同士が勝手に決めたことだ。婚約者と言っても当人たちはなんとも思ってなかった」

「それはあなたの考えでしょ。『もと!』婚約者がどう想ってるかなんてわからないわよ」


 なんだ?『もと』ばっか強調して。

 ひょっとしてコイツ……妬いてるのか?

 お前は俺の嫁か。


「へっ?」

「あっ」


「何度も言ってるが人の心を勝手に読むな!」

「あなただって言葉に出せばいいじゃない!」


 信頼する仲間として俺たちはお互い心をブロックするのをやめた。

 我慢せずに自分の意志を伝えることにしたのだが――


 そんなイチャつく俺たちに怒りを覚えたのか地中から【ゾンビの群れ】が襲ってきた。

 肌は腐りかけて鼻の奥までツンとつく異臭を漂わせている。

 シャルル皇女と怪我人を安全地帯に待たせているのでこんな雑魚にかまっている時間などない。


 片っ端から瞬間移動テレポート】させてやる。


「数が多いから能力を制御する良い練習台になるな」

「そうね。ところでこんなに大量のゾンビを送っても大丈夫かしら?町に被害がでないか心配だわ」

「それは確認済みだし問題ない。俺が持ってないときの方が恐ろしい力を使うからな」


 千里眼でちょこちょこ様子を見てるが今のところ町の人々に問題はない。

 こっちはさっさとボス戦を終わらせるとしよう。


 【首なし騎士デュラハン


 死を予兆すると言われており、首無しの馬に跨っている。戦闘時には片手にムチを、もう一方の手には自分の首をぶら下げている。


「なんでリッチキングがボスじゃないのかしら?」

「さーな。夫婦喧嘩でもしてるんだろ」


 あ、地雷踏んだ。

 やっとマオの機嫌が少し良くなってきたのに「首を刈ってやる」とか怖いことを言いだした。デュラハンの首はもうねえよ。


 メモリーソードが手元にないので慎重に様子を伺っていると――


 いかにも痛そうな棘のついたムチを頭上で数回ヒュンヒュンと回し投げてきた。

 ムチの攻撃力なんてたかが知れている――と思っていたのだが。


 瞬間移動で余裕をもって避けると、標的を失ったムチは勢いそのままにダンジョンの壁に激突。壁は空間ごと消滅していた。


「は?あのムチ消滅魔法が使われてるぞ!」


 俺の使う瞬間移動は物体を同次元において移動させるもの。

 消滅魔法は違う次元に送られると言われている。


「地獄界とかあるのか?とにかくあの攻撃はやばい。受け止めようとしてなく良かった」


 消滅魔法だろうが当たらなければどんな攻撃だって今の俺には通じない。

 まずは相手の思考を読みステータスを確認しておこう。


 あの持ってる首は目を開けて目を合わせると相手の自由を奪うのか。

 ムチは無限に伸びて射程距離がないとかチートだな。

 知能も高いようだがこれならなんとかなりそうだ。


 先程投げたムチの反動を利用して再度こちらに襲いかかってきた。

 瓦礫の山と同じようにデュラハンを潰してもかまわないのだが、消耗をなるべく避けたいので念動力を最小限に発動した。


 こちらにへ向かっていたはずのムチが180度方向を変えデュラハンへ襲いかかる!


「念動力は物質じゃないから消滅魔法も効かない」


 制御を失ったムチは自分の首を捕らえ消滅した。デュラハンを丸ごと消滅させたらエリクサーをドロップできない可能性もある。これが最善策だ。

 首を失ったデュラハンは怒り狂い猛然と突っ込んできた。


「きゃー!アイツを怒らせてどうするのよ!?」

「こうするのさ」


 念動力で結界を張っただけのつもりだったが――


 考えていたよりデュラハンの怒りが凄まじく、想定以上のスピードで突進してきたため上半身と下半身の間に結界を張ってしまった。


「ぎゃああああああああああ!!」


 悲鳴を上げて気を失った。

 意図したわけじゃないのに、眼の前で魔物の体を真っ二つにしてしまったのだ。ホラーかよ。


 デュラハンの体はゆっくりと消えていき、【エリクサー】を無事にドロップすることができた。



 * *



「まさかこんなに早くお戻りになられるとは思いませんでした」


 驚愕するシャルル皇女を前に、「超能力でサクッとやっつけてヒュンと瞬間移動してきました」――などと言えるはずもなく、「ダンジョンボスの部屋は案外近くでした」というのが精一杯だった。


「どうぞ、これがエリクサーです」

「ここで受け取るなんて手柄を横取りするような真似はできません。メモリー様が直接わたくしのお父様にお渡しくだされば疑われるようなこともないかと思います」


 ……なるほど。


 俺の噂も耳にしていたってわけか。まさかここにも無能と呼ばれていたやつを信じてくれる人がいたとは。


「ではこうしましょう。怪我をされているこの方とシャルル皇女様を一緒に私が送り届けます。もちろん失くさないようにエリクサーはシャルル皇女様に預けておきます」

「送り届けるもなにも転移魔法には距離の制限もございますし、ダンジョン脱出から連続して転移魔法を使うことは魔力が切れて不可能です。国境にはもちろんですが城にも結界が張られています」


 え?そうなの?

 軽い感じで言っちゃったけど超能力なら大丈夫じゃないかな。


「人命救助が最優先です。ここで思案するよりとにかくやってみましょう。では私がお二人に触れますので声を上げたりしないでくださいね」

「魔法陣を書かなくてもよいので――」


 【瞬間移動】


 なにか言いかけてたけどまあいっか。

 メルノア公国のお城は何度か来たことがあるし、完全記憶能力で詳細な位置まで記憶してるから問題ない。

 

「気分は大丈夫ですか?着きました」


 無事に城の脇にある池のそばに到着した。直接城に入っても良かったが不法侵入になるからな。

 転移魔法と違い体に負荷はかからないから酔ってないと思うけどお姫様と怪我人だし心配しすぎなんてことはない。


「え?え?え?直接転移なんて……魔力が……結界を……」


 よく聞き取れないけど、それより重症者とエリクサーを必要としてる方のために迅速な行動をしなくてはいけない。


「怪我人と病人のために人を早く呼ぶのが得策かと」

「そ、そうでした。だ、誰か、誰かいませんか!すぐに来てください!メモリ様このご恩は必ず――あ、あれ?メモリー様?どこにいらっしゃるのですか?」


 振り向いたときには俺はすでに瞬間移動で姿を消していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る