第12話 シャルル=メルノア

「そろそろか」


 ダンジョンに入って千里眼で調べた際に、安全地帯が19階にあるのは確認していた。


 安全地帯と言うくらいなので魔物から身を守るための場所になる。そのため千里眼を持ってしても結界に阻まれ中に人が避難してるかまでは分からなかった。


『あの子……なにか企んでるみたい。私のせいで厄介ごとに巻き込んでごめんなさい』

『マオも気付いてたか。あんな奴のためにマオが気に止む必要はない。どうやら俺の剣がお目当てらしい。アランにプレゼントでもする気なんだろ』


 人はすぐには変われない。昨日裏切られたばかりとなれば尚更だ。

 

『俺の千里眼と読心術テレパシーから逃れる術はない』

『その剣はメモリー専用よ?他の人にとっては害にしかならないのに……。元カノなのにいいの?』

『それも彼女の決断だ。今はなんとも想ってない』


 後ろから耳を傾けて様子を伺ってるようだがご苦労なこった。


『そうなのね!』


 ぱぁーっと花が咲いたような眩しい笑顔になりやがって……コイツひょっとして俺のこと好きなんじゃねえか?


「え?」

「え?」


 お、おい……真っ赤な顔して目を逸らされたら俺まで意識するからやめろ!って心がシャットアウトできてねえ!?


『きゅ、救助に集中するぞ』

『そ、そうだね』


 ここまで多くの魔物を倒してきたからさすがに疲れてきた。超能力は魔力の代わりに集中力を消費するのだろう。


 ラクスが驚いてるようだがマオの姿は見えてないし問題ない。

 そしてようやく安全地帯の入り口までやってきたのだが……


「入り口が崩れて出るに出られなくなっていたのか」


 追ってきた魔物にでも攻撃されたのか壁が崩れ落ち、ぱっと見ではここに安全地帯があるようには見えなかった。


「こんな荒れた場所になにかあるの?」


 中ボスを倒してから無言でついてきてたラクスが尋ねてきた。俺とは目を合わさずキョロキョロしている。


「ここに救助を呼んだ冒険者がいるはずだ」

「ここって……ただの瓦礫の山じゃない」


 普通の冒険者が訪れたら見落として通り過ぎただろう。だが俺にはサイコメトリーがある。

 瓦礫の山に触れて情報を読み取っていた。


「全部で……6人か。しかも……」 


 こんなところで思わぬ人物と会うはめになるとは。

 気は進まないがこの状況では仕方ない。


「聞こえますか?助けにきました。皆さんご無事ですか?」


 テレパシーを使いながら言葉を口にするのはなんとも間抜けだ。


「誰に話しかけてるのよ?相変わらず独り言なんて気持ち悪いわね」


 心を読むまでもなく心の声がダダ漏れしてるぞ。


『ああ……やっと助けがきたのですね。ありがとうございます。1人が重症を負ったうえにこの通り出入り口は塞がれてしまいました』


 重症者が1人いるようだが最悪の事態は免れた。

 瞬間移動を使いたいがこの中は初めての場所のため使用できない。


をやるしかないか。全員出入り口から離れてください」


 大きく息を吸い込意識を瓦礫に集中する。

 俺にできるだろうか?違う、やるしかない。


「うぉぉぉぉぉ!!」


 ここまで力を解放するのは初めてだ。コツを掴めば楽勝だろうが昨日能力を手に入れたばかり。

 やばい、意識がとびそうだ。それでも……それでもやるしかない!



「くっ!?」

「私も手伝うわ!頑張りましょう!はぁぁぁぁぁ!!」

「マオ……無理して魔法を使うな!魔力がなくなったらお前は……」

「あなたの力になりた……いの……」


 どこまでお人好しなんだよ。お前を失うわけには……


「初めて……初めて出来た真の仲間を失ってたまるか!オラァ!」


 膨大な瓦礫の山がすべて空中に浮かんだ。そして巨大なひとつの塊となり一瞬で消えてしまった。


「はぁ、はぁ、無茶しすぎたか……もう体が動かねえ」

「それは都合がいいわね。頑張ったご褒美にこの剣は私が頂いていくわ。極大魔法も使えるようになるをね」

「ラクス……やめておけ。それは聖剣なんかじゃない。きっと後悔するぞ」

「嘘までついて惨めなものね。だいぶ魔力も回復できたし私は失礼させてもらうわ。聖剣を失って運良く脱出できたらまた会いましょう。重症者がいて生き残れるとは思えないけどね。ふふふ、ではご機嫌よう」


 救助者まで見捨てていきやがった。馬鹿な奴だ。

 

 魔法を使いラクスは姿を消した。


「マオ、生きてるか?」

「なんとかね。さっきメモリーソードが少しだけ魔力を返してくれたみたい。剣……取られちゃったね」

「ああ……作戦通りな」


 心を読める俺が騙し合いに負けるわけねーだろ。

 最初からラクスを信じちゃいなかった。

 そっちがその気ならそれ相応の報いを受けさせてやる。


「これでわかっただろ?アイツに同情する必要はない。正当防衛だし気にせず中に入るぞ」

「うん……」


 校正するチャンスは与えてやった。

 素直に要救助者を助けていれば、のひとつも貰えただろうに。


 * *


「まさかメモリー様が生きてらっしゃったうえに、わたくしを助けてくださるとは。こんな状況でなければ飛び上がって喜んでいるとこです。本当になんとお礼を申し上げれば良いのか、改めてありがとうございます」

「いえ、偶然通りかかっただけですのでお気になさらず」


 彼女はクスクスと笑ってしまったが無理もない。

 道端でバッタリ会ったのならまだしも、ここはダンジョンの最下層手前だ。


 彼女の名前は【シャルル=メルノア


 メルノア公国のれっきとしたお姫様だ。

 艶やかなピンク色の長い髪が特徴的で、美人を絵に書いたような顔とスタイルだ。

 皇女の立場でありながら奢ることのない性格から国民に広く愛されている。

 

「家臣のひとりがわたくしを庇い深手を追わせてしまいました……」


 笑顔はすぐになくなり悲痛な声をあげる。さらに言葉は続く――


「魔力も尽きてしまい全員では脱出困難な状態です。ここは19階の地下深く、メモリー様も残りの回復アイテムに限りもございましょう。ですがせめて家臣だけでもなんとか救っていただけないでしょうか?無理を言ってるのは承知しています。それでも彼らたちには生きて――」

「貧乏なので高価なものは持っていませんが、回復薬とマジックポーションでしたら全員分ありますよ。転移魔法を使える方がいれば良いのですが」


 パーティーを抜けて独立したばかりで上級回復薬が買えなかったのは痛い。

 だけどいつものようにマジックポーションを用意しておいたのは正解だった。


「転移魔法を使えるのは一人だけです。一度に全員脱出も可能ですが重症を負っている者に転移魔法は体が耐えられないでしょう。それにわたくしにはやらなくてはいけないことが……」


 申し訳無さそうに俯くシャルル皇女。訳ありでダンジョン攻略に望んだのは明らかだ。

 【生と死の狭間】と呼ばれているダンジョンだけあって、ダンジョンボスを倒せば生命にかかわるレアアイテムが手に入る。

 ちなみに極めて入手困難なため通常の冒険者は10階までしか降りてこない。


 【エリクサー】どんなに瀕死の状態や不治の病のような状態異常でも治すことのできる神アイテム。


 ちょっと頭の中を覗かせてもらいますよ。

 なるほど……あのお方に使うのか。

 

「エリクサーなら私が手に入れてきます。その後、重症者は俺が必ず助けますのでシャルル皇女様も外でお待ち下さい」

「な、なぜそれをご存知なのですか!?いえ、あなたはメモリー様。さすがわたくしのだった方です」


 げっ!それはいま言ったらダメなやつじゃないか!


 あ、マオが気を失った……


 あとで説明するのが面倒だ。記憶を消す超能力とか手に入らないだろうか?

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