第11話 真の実力

 一か八かだったがどうやら上手くいったようだ。


 中ボスの部屋に入るとすでに戦闘が始まっていた。

 リッチクイーンから嵐のように降り注ぐ魔法攻撃は、部屋全体を覆うほど広範囲なものだった。


「いきなり死ぬかと思ったがピンチで【念動力(静)】が発動できてよかった」

「なんて念じたの?」

「んー……自分でもよくわからん」


 必死だったからな。

 魔法攻撃を防いでいる障壁に触れてサイコメトリーで確認すると【絶対防御】の文字が浮かび上がった。


 マジかこれ!?物質攻撃も魔法攻撃も効かないとか無敵モードじゃねえか。発動時間は1分か。かなり時間が稼げるな。


「メモリー……なの?」


 やっぱり見間違いじゃなかったか。彼女が一人だとは思わなかったが、


「ああ。残念ながら俺だ、勇者じゃなくて悪かったな」


 嫌味で言ったわけじゃない。ラクスだから特別に助けたわけでもない。俺は人を見捨てることができないだけだ。


「【ダイヤの盾】のみんなが私を見捨てて――」


 彼女の言葉が途中で詰まった。自分の言葉がブーメランになったのだろう。

 しかし、今はそんなやり取りをしてる場合じゃない。もうすぐ念動力(静)が切れる時間だ。


「俺が時間を稼ぐ間に魔法で脱出しろ」

「何馬鹿なことを言ってるの!?魔法の使えないあなたがリッチクイーンを相手にできるわけないじゃない!」

「……かもな」


 あまり能力を見られたくないんだよ!魔法結界と違ってこのシールドも見えないから気づいてないようだが。


「それに魔力が尽きてしまって来た道を戻ることも転移魔法も使えないわ」


 俺が瞬間移動で連れ出したら、今日はダンジョンに入れなくってしまう。

 瞬間移動は訪れたことのある場所や見えている場所しか行けないので救助者のところへ直接行くこともできない。


「それなら、俺の邪魔をしないと約束してくれ。このダンジョンで起こることも秘密にしてくれ。約束してくれるなら救助者のところまで同行してもいい。裏切ったときは命の保証はしないがな」

「救助者って――ここはまだ5階よ?他の冒険者が来るまで待ちましょう」

「他の冒険者だと?お前らのトラップ魔法でもう誰も来ない。ここからはその危険がないからすぐに行けるはずだ」

「トラップ魔法ってなんのこと?それでもあなたの実力じゃ――ひぃ!」


 トラップを仕掛けたのは他のメンバーか。だけどラクスが知らなくても彼女も同罪だ。仲間のしたことはパーティーの連帯責任でもある。

 俺はお前を見捨てることもできる。マオに感謝するんだな。あいつの心が闇に落ちちゃダメって言ってる。


 ん?顔に出てたか。ラクスが「わかった」と恐怖の顔をして頷いてる。


 あーあ、余計な時間を費やしたからリッチクイーンが俺のシールドに警戒して空中に上がったじゃねえか。こいつの知力はかなり高い。まあ、俺もあれを試す絶好のチャンスだが。


 【念動力(動)】


 なにも物を動かすだけが念動力じゃない。応用してこそ楽しめるってもんだ。

 俺は自分自身に念動力をかけていく。そして――ゆっくりと宙に体が浮いていった。


「ふ、浮遊魔法!?あなた魔法が……自由に空を飛べるなんて……あり得ない」


 魔法じゃない。ちなみに魔道具を使わず空を飛ぶ事のできる奴はいない。人はその身一つで飛ぶことはできないのだ。


『メモリーすごいすごい!私と同じように飛べる人間なんて初めてよ!でも彼女に能力を見られても良かったの?』


 マオのテレパシーか。


『リッチクイーン相手じゃ魔法弾の嵐が飛んでくるから出し惜しみもできない。ラクスが約束を破るなら国外に瞬間移動テレポートで置き去りにするだけだ』


 複雑な表情をしてるマオも同意した。マオは優しすぎる。もちろんいい意味だけどな。


「俺はダンジョンに入ったのが最後だからかなりの時間が経過してる。さっさと終わらせて助けを待つ人のところへ行こう」


 救助を要請した冒険者の食料も体力も尽きている可能性は高い。

 ダイヤの盾が他の冒険者を邪魔をしてなければこんなことにはならなかったんだ。とにかく急がなくては。


 今度は剣の実力を試してみるか。念動力と剣の合わせ技だ。

 リッチクイーンに剣を向け結界目がけて飛び込んでいく。


 え?こんなにスピード出るのかよ!!は、早すぎるだろ!!


 結界を突き破り、リッチクイーンの体を突き破り、勢いあまって中ボスの部屋の壁を突き破ってしまった。


 ぐわぁぁぁぁぁ!!


「悲鳴が聞こえたな」


 リッチクイーンは悲鳴をあげる間もなく消滅したからきっとダンジョンだろう。

 かなり関係ないところまで突き破ってしまったし。とりあえず中ボスの部屋に戻るか。


 【瞬間移動】


 * *


 私は夢でも見ているの?


 仲間に見捨てられ死を覚悟した直後、彼はさっそうと現れた。

 辺りはリッチクイーンの魔法弾で埋め尽くされてるのに、涼しい顔をして立っていた。


『あなたが攻撃を防いでいるの?リッチクイーンの魔法弾は宮廷魔道士でも防ぐのがやっとなのに』


 そんな考えが頭をよぎった。彼は魔法が使えないのよ?バカバカしい。


「メモリー……なの?」


 無能で有名な彼が結界を張れるはずがない。顔が似た誰かなのかも…… 


「ああ。残念ながら俺だ、勇者じゃなくて悪かったな」


 やっぱりあなたなのね。そうよね……私はあなたを裏切ったんだから当然の反応だわ。

 でもちょっとくらい慰めてくれても――


「【ダイヤの盾】のみんなが私を見捨てて――」


 見捨てたのは私も同じ。なのにメモリーは私を守ってくれた。きっと高価なアイテムをギルドの受付嬢が渡したんだわ。

 でも残念、まだ私を愛してるのよ。昨日の今日だし当然よ。


 それなら話を合わせてダンジョンを脱出できるかもしれない。きっと脱出用のアイテムももらってるはず。


 しかし彼は時間を稼ぐからそのうちに逃げろと言ってきた。

 あなたがリッチクイーンを足止めできるわけないじゃない!きっと一人で逃げる気なんだわ。


「それに魔力が尽きてしまって来た道を戻ることも転移魔法も使えないわ」


 この人に弱音を吐くなんて屈辱だけど生きるためなら仕方ない。そう思って言ったのに―

 私は凄い形相で脅された。秘密を守れですって?いまは魔力切れだから後で覚えていなさい。


 * *


 し、信じられない!?


 彼はリッチクイーンと同じように空を飛んでいた。

 人間が飛べるわけない!?しかも彼は魔法が使えないのよ!?


 手には美しく光る剣が握られていた。

 きっとあの剣が彼に力を与えているのよ。あれはきっと【聖剣】だわ!結界も破ってリッチクイーンを貫いてダンジョンまで破壊して。そうよ!きっとそうよ!


 あれは勇者にこそふさわしい――


 考えてみたらアランは私を見捨てたわけじゃない。飛ばされてどうにも出来なかっただけ。他の人達は裏切者だけどアランは勇者だから悪いことなんてしない。

 あの剣をメモリーに奪わて力を発揮できなかったに違いない。どうにかして取り戻さなきゃ。

 

 キャ!?あの聖剣があると魔力のない無能でも転移魔法を使えるようになるのね。

 

 待っててアラン。聖剣は絶対に私が取り戻す。


 聖女はどこまでも落ちていく――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る