第10話 新たな力
「どうやら俺には反応しないようだ」
怪しい魔法陣の痕跡を発見し、詳細を調べた結果ご丁寧なことに二重のトラップが仕掛けられていた。
結界魔法については一度しか発動できないようだが、厄介なのは転移魔法の方だった。
ピコン!!
ステータス通知か。今はそれどころじゃない。
「魔力を持つ人間を感知すると、意思に拘らず何処かへ転移するようだ。しかも持続性のある術式が書かれている」
「私が通ったら罠にかかるのね。ダンジョントラップかしら?」
「違う。この魔法陣は人為的なものだ」
この術式には見覚えがある。俺は寸分違わず記憶できるからな。ハイドがボス戦の前に脱出ルートを確保する魔法陣だ。
ダンジョンのルート上に幻影魔法までかけて設置するのは常識を逸してるぞ。
もしかしたら1階から3階にもトラップ魔法陣はあったのかもしれない。
この階は行き止まりとなる道はないが3階までは複雑な迷路だ。俺は迷うことがないが他の冒険者が行き止まりのたびにトラップにはまっていたら……
「冒険者の数が少なくても魔物は減らないのね」
「マオは目の前に豪華な食事が用意されて急にお預けをされても食欲はおさまるか?」
「ムリ!ケーキ食わせろ」
「ダンジョンも同じってことだ。いったん空いたお腹はいっぱいにならない。ダンジョンの食事と繁殖ならなおさらだ」
魔王のご馳走ってケーキだったのか?可哀想になってきた。
「無事にダンジョンを出たら奢ってやる。そろそろ5階だ。これだけ時間が経てば中ボスを倒すパーティーが出てくるとは思うが用心しよう」
「りょ」
ウインクとかなんのつもりだ?
俺好みなんて簡単に言うものじゃないな。
「え?」
「え?」
デジャブかよまったくこいつは……おっと油断禁物だ。言ってる側から一番厄介な魔物に遭遇しちまった。
【リッチ】
「……最悪だ」
「なにか問題でもあるの?」
大ありだ。俺は魔法が使えない。
それに対しリッチはアンデッドの中で最強とも言われている魔法の使い手だ。
その正体は魔法使いや僧侶の魂と言われていて、高い知性があるそうだ。
「奴の周りには常に結界が張られている。弱点の物理攻撃を当てるには結界を破らなくてはいけない」
俺は光属性の魔法が使えない。そもそも魔法そのものが使えない。結界は物理攻撃では破壊不可能ってのがこの世界の常識だ。
「常識ってのは覆すためにあるのよ。メモリーもその剣も非常識だからきっと大丈夫!わたしも援護するわ」
非常識ってのは褒め言葉じゃねえぞ。
ブーン!
ピコン!! 【攻撃力上昇!防御力上昇!魔力……測定中、測定中】
え?バフ効果だと?
魔力は最初からねえよ。ステータスカードは俺を馬鹿にしてるのか!?
「マオ、ありがとな。おかげで吹っ切れた」
僅かな魔力しかないのに無理しやがって。そうだ俺は独りじゃない。
「超能力を試すいい機会だ。まずは
リッチに向けて右手を構えた。魔法と違いポーズも呪文もいらないが無意識に厨二病が発動していた。
バリーン!!
「は?」
「メモリーぼーっとしないで!結界が破れたみたいよ!メモリーソードを!」
「あ、ああ」
瞬間移動!
「くらえ!」
ズバッ!!
真っ二つに切り裂くと、リッチは淡い光を放ちながら消えていく。バフの効果で楽勝だ。
「マオのおかげで結界を破れたよ」
「え?ひょっとしてあなた気付いてないの?」
え?なにその言い回し!?それ不安になるやつだから……
「
「は?」
念動力でリッチ本体を引き寄せようとしただけだぞ?効かなかったと思っていたんだが。
ステータスカードの通知音も鳴ってたし一度スキルを確認してみるか。
【 メモリー 】
【 B級冒険者 】
【 職業 : 超能力者 】
【 ボーナススキル : 完全記憶能力 】
【 ユニークスキル : 千里眼 読心術 念動力(動) 念動力(静) 瞬間移動 サイコメトリー 】
ユニークスキルが幾つか増えている。
サイコメトリーは俺の完全記憶能力と相性が良さそうだ。たしか触れたものの情報を読み取れるんだったよな?
トラップ魔法の魔力感知から能力が獲得できたのか。千里眼には過去を見通す力はないからかなり使えそうだ。
念動力(静)ってなんだ?念動力が派生してる!?
きっとリッチの結界を破ったのは念動力(動)だろうが理由が解らない。
「ふっふっふっ。解らないならマオティーチャーが教えてあ・げ・る」
こいつの前世も絶対に日本人だ。メガネをくいっと上げる仕草が様になってやがる。
「念動力は物理攻撃じゃないのよ」
「そうか!物体を動かそうとしてもなにかに触れてるわけじゃない!」
先に言わないでよって抗議の声を上げてくるマオだがでかしたぞ!
メモリーソードでも破壊は可能かもしれないが接近するリスクがあるからな。
唯一俺の弱点だった魔法と遠距離攻撃が一度に手に入ったも同然だ。
きっと念動力は【無属性魔法】に分類されるのだろう。もう一つの【静】って意味はわからんが。
「よくやったなマオ。ケーキを2個にしてやろう」
「許す」
即答かよ。まあそれぐらい安いもんだ。念動力より大事なものをくれたから――
「中ボスの気配が残ってるけど一気に蹴散らして救助に向かうぞ」
「おーう!」
もうダイヤの盾がどうのとか関係ない。
俺が遭難した冒険者グループを助ける。
* *
「これ以上は無理よ!」
「まだだ!
現在はラクスとアランが交戦中だった。
すでにガンツ、ハイド、エミリは戦線を離脱している。
彼らは無謀にもマジークポーションが切れた状態で、【リッチクイーン】に臨んでしまったのだ。
「いくら強敵だからってここまで一方的にやられたのは初めてでごわす」
「ガンツのヤリ攻撃は効かないし、セシルのシールドは簡単に壊されるし」
「も、もしかして……わたし達はメモリーリーダーの戦術があったからいつも強敵と戦えていたのでしょうか……」
「アイツはもうリーダーじゃねえ!無能一人が抜けたところで俺たちに影響がでるわけねーだろ!」
自分たちより格下だと思っていたからこそ気付かない。そして気付けない。
「今回もアランがきっとやってくれるはずだ。あんな魔力のない無能と違って勇者の力ってやつでな」
「それにしてはいつもと様子がおかしくない?ピンチどころか壊滅状態なのに結界で守ってもくれないし攻撃は効かないし。ラクスが聖女だからって相手の結界を破る力はもう残ってないはずよ」
私が撤退を提案してるのにアランはいつまでああしてるつもりなの?
勇者のプライドなんかより仲間の命のほうが大切でしょ!あいつだったら真っ先に……
ラクスは彼のことを思い浮かべていた。
自分が捨てた男のことを――
「まずい!アランのやつ脱出用の魔法陣の方へ吹っ飛ばされたぞ!魔力が尽きてたからあれは1回しか使えねえ!みんなも魔法陣に飛び込め!」
「で、でもラクスさんが!」
「そんなの知るか!人の命より自分の命を大切にしろ」
ハイドの言葉にセシルは言い返せなない。
ガンツとエミリは二人のやり取りなど一切無視して魔法陣へ向かっている。
「そうですね」
セシルはハイドに手を引かれ魔法陣へと向かった。シーフの素早さを持つハイドでなければ間に合わなかっただろう。
アラン、ガンツ、エミリ、セシルの体が同時に収まる。すぐに魔法陣は起動して4人の姿は見えなくなった。
「そ、そんな……私だけ見殺しにするなんて……」
そんなラクスの絶望などお構いなしにリッチクイーンの強烈な魔法がいくつも襲いかかってきた。
もう魔力が残ってない……こんな最後なんてあんまりよ……
自分の運命を呪いながらラクスは目を閉じた。
「……」
周りがずいぶん静かになった。私はきっと死んだのだろう。
ゆっくりと目を開けたその先には――
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