第8話 ダンジョン
アンナとのランチを済ませ、下見も兼ねて今回のクエスト対象であるダンジョンの入口へとやってきた。すでに多くの冒険者が集まっている。
『ここがその【クエスト】のダンジョンなの?』
『ああ、数日前からダンジョンに取り残されてる人の救出任務らしい』
『ずいぶんとのんびりした救助なのね』
マオとテレパシーで会話をするのもだいぶ慣れてきた。口調は俺の要望でアイドル風になっている。悪いか?
「せっかく可愛い顔してるんだし」と言ったら一発オッケー。ちょろインかよ。
少し脱線したがアンナから聞いた話をまとめるとこうだ。
数日前に【生と死の狭間】と呼ばれるダンジョンへ潜った冒険者パーティーが、最下層近くで身動きが取れなくなった。
幸いなことに魔物が侵入できない安全地帯に逃げ込めたものの、一人が足に深手をおってダンジョンから脱出できないらしい。
パーティーの一人から救助要請が入り緊急クエストが発令されたのだ。
『B級冒険者以上を総動員するクエストなんて初めてだ。よほどのお金持ちかお偉いさんかもな』
『ふーん。身分に興味はないけど凄いことなんだ?メモリーも頑張ってね!』
うわ!乙女ゲーのセリフにそっくりだぞこれ!
「頑張るから期待してくれ」
「誰があんたなんかに期待するのよ」
「ラクス?」
テレパシーを使わず話した言葉をよりにもよって彼女に聞かれるとは。
「独り言をブツブツ呟いて気持ち悪い。妄想するのもいい加減にしたら?」
自分から二度と話しかけるなって言ってなかった?
彼女がいるなら――
「やあ、メモリー!キミは見学にでも来たのかな?」
ですよね~。アランもダイヤの盾の面々もいるに決まってますよね~。
「クエストの下見に来たんだ。順番はソロだから最後になるがな」
わ、分かってるよ。マオと二人でだよ。拗ねて耳に息吹きかけんな!
「嘘つくんじゃね―!今回は上級クエストだからC級のお前が参加できるわけねーだろ!」
「ハイド、うるさいわよ。メモリーはね受付嬢のコネで参加するの。さっき
アンナと食事してるところをエミリは見かけたのか。
「あら?私に捨てられたからってあの巨乳娘に媚び売って参加しようなんて落ちぶれたものね」
落ちぶれるも何も最初から落ちまくってたから上がってもいないけどな。あんましつこく絡んでくるなよ。
「クエスト前に邪魔して悪かったな。お互いベストを尽くそう」
自分でも驚くぐらい自然に言葉が出てきた。
コイツ等はもう過去の話なんだ。
「ちょっと!さっきから私を無視するとか何様なのよ!」
「ラクスは少し落ち着いた方がいいよ。同じクエストに挑戦するなら格の違いを見せつけてあげればいいじゃないか。勇者と聖女の力をね――って最後まで聞け!」
うるさいな。クエストの準備があるから相手してられっかよ。
そっちは大人数だから余裕だろうけど。
「うるさい連中」
「いつもあんな感じだよ」
グループを作るとストレスの捌け口として特定の誰かを攻撃する。たまたまそれが俺だったって話しさ。
俺でさえ一人のときはみんなに変なあだ名を付けてたくらいだからな。
「人間てのは魔族よりも面倒な生き物ね」
「そうかもな。その分、反省して生まれ変われるのは人間の良いところだ」
メモリーみたいに?って心の声が聞こえた気もするがお互いに気付かないふりをした。
* *
「本当に一人で行くのか?」
「はい、人の命がかかってますから」
無能と噂されてたことが仇となってなかなかダンジョンに入れてもらえない。
数分後、この事態を想定したアンナが駆けつけて俺の身分を保証してくれたおかげでようやく中に入ることができた。
今回ばかりはお節介どころか助かった。お礼はケーキをご馳走するだけだ。楽勝だな。
「はぁ……」
そんなにマオもケーキが食べたかったのだろうか?
やれやれって顔すな。
「そろそろ出るぞ」
「え?な、なにが出るの……。怖いこと言わないでよ」
ダンジョン名からも想像がつく通り、ここはアンテッド系の魔物が多く出現する。
「魔王のくせに」
魔物の頂点が魔王だと誤解する人も多いがそれは間違いだ。
そもそも魔族と魔物は異なる存在。人間族、エルフ族、ドワーフ族などがあるように魔族もまた存在する。彼等は高度な魔法と知能を持ち、文明も発達している。
魔物は目的を持たずただ殺戮と破壊のみを行う野蛮な生き物だ。ダンジョンから生まれる理由も未だに解明されていない。
「メモリーすごい!魔族をそこまで理解してる人間はあまりいないよ」
「完全記憶能力があるから覚えるのは得意だ。小さな頃からありとあらゆる文献に目を通した」
ファンタジー世界に転生してから目新しいことばかりで夢中になった。
12歳になるまで環境にも恵まれていたおかげだ。
「ここには多くのアンテッド系の魔物がいる。あんな感じの奴らだ」
千里眼を使っているから魔物の位置が手にとるように分かる。
正面から鎧を身につけた【スケルトン】が数体走ってきた。
前もって情報も位置も把握してなきゃ暗闇から現れるガイコツに驚いてしまうだろう。
「げっ、気持ち悪。さっさと片付けてよ」
「言われなくてもそうするよ」
用意していた火炎瓶に火をつけて投げつけた。
スケルトンは単体で行動することはなく、常に10体ほどの群れで活動する。
先頭の数体にさえ火がつけば勝手に後続も燃えてくれる。
魔法で倒すばかりが強い冒険者じゃない。要は頭の使いようだ。
「魔力を無駄遣いしたら先が持たないからな」
俺に魔力はないけど。
他の魔物なら炎程度で簡単には倒せない。闇属性と火が弱点の賜だ。省エネ省エネ。
『カッコイイ……』
「ガイコツがなんだって?勢いよく燃えててテレパシーでもよく聞こえない」
「なんでもない。この勢いでどんどん行くわよ!」
マオのやつ気分が乗ってるな。俺もだけど。
この調子で中ボスのいる5階まで一気に行くか。
このダンジョンは2階から複雑な迷路のようになってるけどダンジョン攻略者が残してくれた地図は頭の中に入っている。
先に入ったパーティーにも直に追いつくだろう。
ダンジョン攻略ってこんなに楽しかったっけ?
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