第7話 冒険者ギルド
始まりのダンジョンを無事にクリアした後は、クエスト達成の報告するため冒険者ギルドへと来ていた。
ボスを倒した証のドロップアイテムを提出することで、ようやく冒険者ギルドに正式採用される。
ついでにダイヤの盾を除隊した手続きも行うことにした。本人確認としてサインをしなければならないからだ。
「冒険者の新規登録とパーティーの申請手続きをお願いできるかな」
「あ、はい。冒険者の新規登録とパーティー申請の同時登録ですと――ってメモリーさん!?」
声をかけるなり【アンナ】が固まってしまった。
ショートで緑色の髪をしている明るく元気な冒険者ギルドの受付嬢。
ギルドの受付嬢には珍しいくらいのお節介焼きで、無能と呼ばれている俺に対しても彼女だけは皆と同じように接してくれる。そんな何気ない心遣いが嬉しかった。
「始まりのダンジョンをクリアしたのでドロップアイテムを持ってきた」
「いやいやいや、おかしいでしょう?すでにメモリーさんは6年前に始まりのダンジョンの試練を終えてますから」
正気を取り戻したアンナが、両手を広げ「騙されないわよ」と言ってくるが疑うのも無理はない。
始まりのダンジョンをクリアできるのは人生で一度きり。再度挑戦しようとボス部屋へ行っても魔物は現れないのだ。
「信じられないだろうけど事実だ。あの時はラクスが一人でクリアしたようなものだからな。これを見れば納得するだろ」
カウンターにドスン!と鈍い音が響きわたる。
もちろん俺が倒したボガートの魔石なんだが何をみんなそんなに驚いてるんだ?
「な、なんですかこれは!?こんな大きな魔石が始まりのダンジョンで出るわけないじゃないですか!鑑定すればそんな冗談すぐに分かりますから待っててください!私に嘘をついたらだたじゃ済まないんだから」
「大丈夫だ。ランチをかけてもいい」
「……言いましたね。それなら私もランチをかけます。約束ですよ!」
アンナがぷりぷりと怒りながらニヤリと笑っている。
どっちなんだよ?
そして魔石を手に取り鑑定魔法の呪文を唱え始めた。
『お主も罪な男よのう』
『マオ、いきなりテレパシーで話しかけてくるな。びっくりするだろ。しかもまた変な口調に戻りやがって。アンナは曲がったことが大嫌いなんだよ。俺は嘘をついてないがな』
『本当に分かっておらんのか?はぁ……モテぬわけじゃ。お主が相手だから嘘をつかれたと思ってムキになっておるんじゃろうが。しかも賭けはどちらに転んでも――』
呆れ顔をしながら途中で話をやめるんじゃねえ。マオの姿は俺にしか見えないため余計に腹が立ってくる。女性の心理なんて俺が知るわけねーだろ!
「こ、これは確かにメモリーさんが倒したボガートの魔石で間違いありません……」
「だからそう言ってるだろ。ランチおごれよな」
「はい!」
賭けに負けてこんなに元気が良いとは、よほどお金に余裕があるんだな。
宿なし、金なしの俺とは大違いだ。懐が寂しいから助かった。
「それと【ダイヤの盾】の除隊届にサインするから頼む」
「あっ、そういえば本当なんですか!?パーティーのお金に手を出してクビにされたって噂。私は信じられなくて……」
初耳なんですけど!?
あいつら自分達の評判が落ちないようにでまかせ言いふらしやがったな。
「信じてもらえないかもしれないけど、そんな事をするわけないだろ。仲間の金に手を出してたら一人暮らしたり、もっといい装備を着けてるよ」
俺の防具は冒険者になりたての頃にギルドから支給された【見習い防具一式】だ。
魔力がないのを理由に必要ないと言いくるめられていた。報酬の配分にしたって最低限しかもらっていなかったので居候生活をするしかなかった。
「わ、私は信じてましたから!!そんな嘘をつく酷いパーティーなら抜けて当然ですね。そうなるとソロパーティー扱いになりますが……この魔石を見るかぎりスキルアップしたんですか?」
「あ、ああ……。スキルアップというか
「ひゃっ!?」
冒険者として新規登録する際は、ステータスカードを提出しなくてはならない。
すでに冒険者として活動していたわけだが、どういったわけか【始まりのダンジョン】を脱出するとC級冒険者の文字は消えていた。
諸々の事情を他の冒険者やギルド職員に知られたくなかったので耳打ちしたわけだが――
「あの無能ヤロウ!アンナちゃんにセクハラしてやがる!」
「ラクス嬢に捨てられたからってふざけんな!」
ほら、大きな声出すから思いっ切り目立ってない?
マオもため息ついてんじゃねえ。可愛い顔が台無しになるだろ。
『え?』
『え?』
「心を勝手に読むな!」
「コイツ、セクハラだって認めやがった!」
え?違うって。マオに言ったんだぞ?
「し、静かにしてください!メモリーさんはセクハラなんて……悪いことなんてしてませんから!私が不快に思ってないのでノーカウントです!」
相変わらず
冒険者たちはブツブツ言いながらも引き下がるしかなかった。
今度はアンナが俺に耳打ちしてきたのだ。
「騒いで失礼しました。それで先程の話ですが――」
「ああ、誰にも見られないようにこれを見てくれ」
「!?」
そうだよな。職業が変化するなんて話は、前代未聞だからその反応は正しいよ。
冒険者ギルドの職員は、ステータスカードの名前と職業、階級を見ることができる。これでスキルまで見られていたらパニック状態だろう。
「ぷっ、ぷぷぷ、笑ってごめんなさい。メモリーさんらしくて可笑しくなっちゃいました」
「俺らしい?」
彼女曰く、職業が【能力者?】の頃は疑問符がついてたから最初は冒険者になるのを個人的に反対してたそうだ。能力があるのかもわからない職業で身の危険を恐れていたとか。
しかしいつの間にかAランクパーティーのリーダーにまでなったかと思えば今度はクビにされたと噂を聞いてどう声をかけるか悩んでたらしい。
「いつも想像の斜め上を行きますね。はい、ステータスカードの更新が終わりました」
「おい、これって……」
「魔石鑑定の結果、ボーナス報酬がつきました。初回クエスト達成おめでとうございます!〇〇〇、〇〇〇の〇〇冒険者さん」
〇〇と口をパクパクさせているが、俺にしかわからないだろう。
ちょう能力者の【B級冒険者】さん。
ちょうって発音なのは、この世界に超能力って言葉はないから、とびきりの能力者ってことなんだろう。
「ははは……。あんなに階級を上げるのに苦労したのに……ありがとうアンナ」
「忖度は一切してませんからそれがメモリーさんの実力なんですよ。そうそうさっき緊急クエストの案内があったので、ランチを食べながらお話しますね。これでメモリーさんも単独で挑戦できますから。順番は最後になってしまうと思いますが」
「それは願ったり叶ったりだ!ソロでクエストに挑戦するならたっぷり情報を集めて準備万端で望みたいからな」
その後、約束通りランチを奢ってもらったわけだが『ワシも混ぜてくれ』とマオが何度も言ってくるのでなだめるのが大変だったのは言うまでもない。
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