第5話 超能力者
「あ、だめ」
「ち、違うそこじゃない。もっと上」
「そうそう、そこそこ。そこに思いっきり、ぶっ刺して!」
「うるせー!集中できないから紛らわしい声を出すんじゃね―!」
【始まりのダンジョン】でボス戦を繰り広げる俺に対し、本人は良かれと思いアドバイスを送ってるつもりらしいのだが――
妖精の姿をしているマオは正真正銘の魔王だ。呼び名は面倒なのでこのままにしている。
なぜ魔王と断言できるのか?俺がユニークスキルを獲得したからに他ならない。
最初にマオが現れたとき、彼女は俺に対して魔王だけが持つ特殊魔法を使った。
【魔眼】すべてを見通すその目からは何人たりとも逃れることはできない。
「油断も隙もないやつだ」
その結果、俺は【
魔眼と同等の性能を持つこのスキルは、相手のステータスを見極めるだけのものではない。
その名が示す通り遠く離れた何千キロ先を見ることもできるし、眼の前にあるものを透視することだってできる。マオは認識できないレベルの幻影魔法で姿を隠しているらしいのだが、千里眼のおかげで姿も正体も俺だけが知ることとなった。
ついでに【
テレパシーと聞けば最初に頭に浮かぶのは交信手段だろう。もちろん意思疎通の伝達手段としても使えるのだが、実際はもっと応用が効いて便利だ。
相手の心や思考を読み、なにを考えているのか把握することができる。マオは通信手段として使っただけと最後まで認めなかったが、俺の心を読んだに違いない。
俺好みの美少女なんて思い浮かべるんじゃなかった。
「え?」
「え?」
「また人の心を勝手に読むんじゃね―!おっと、危ない危ない油断禁物だ」
ダンジョンボスの鋭い攻撃が、唸りを上げて頭上をかすめていった。
通常【始まりのダンジョン】のボスを攻略するのはたいして難しくない。ダンジョンボスとは言っても、新米冒険者が倒せるレベルなのだ。過去の俺は魔法が使えず攻撃が効かなかったので倒せなかったけど。
【
新米冒険者になりたての頃は、魔物の種別をあまり知る機会がない。たとえ知っていたとしても攻略法が広まっているため、せいぜいゴブリンやオークを想像するくらいだ。
しかし、俺はいま大激戦を繰り広げていた。もちろんマオのせいなのは明らかだ。
「なんで【先代魔王】が相手なんだよ!」
「あなたが私をいやらしい目で見るからでしょ!」
千里眼と読心術を使ってみたかったんだからしょうがないじゃん!!
名誉のために言っておくが決して透視しようとしたわけではない。
こいつのステータスを確認しようと出来心で覗いたところ【先代魔王】を見てしまったわけだ。
なんでも先代魔王にそそのかされて人間界へ来たらしく、本人は騙されたと言っている。
ちなみに魔眼と魔眼の力は相殺されるため、心を読むことはできなかったそうだ。
俺とマオの眼についてもお互い防ぐことは可能なのだが、いまは戦闘中のため意識が敵に向いているのでウェルカム状態だ。
先代魔王を相手に苦戦しているが、元は魔力量の少ない
どうやら魔力が尽きてきたらしく、魔法攻撃の数も少なくなってきた。現在は強引に剣を振り回すだけとなっている。
ユニークスキルがありながらなぜ苦戦しているのかって?
俺が【メモリーソード】を上手く扱えていないのだ。
「重くて振り上げることもできない。自分の名前がついているのに恥ずかしいな」
前世の頃だったら中二病と言われること間違いない。虹色剣で良くない?
どうやったら剣を上手く扱えるんだ?
マオは剣に拒絶されたと言っていた。俺専用の剣だとも。
今までみんなが扱える魔法剣を俺だけが使用できなかった。魔道具でもある魔法剣を扱うには魔力を注ぎ込む必要があったのだ。メモリーソードも魔力を吹き込まなければ使えないのか?
俺には魔力がない。あるのは……
「あっ」
魔力喰いの森から脱出したときの光景が脳裏をよぎる。
剣に触れると同時に魔法が発動されていた。
誰の魔力で?
体は宙に浮き、気づけば始まりのダンジョンに来ていた。
どうやって?
「マオ、やっぱりお前は大した魔王だ」
「え?」
だから顔を赤らめんなって!こっちまで恥ずかしくなる。純情かよ。
「この剣は長い年月をかけて魔力を吸い込んできたんだ。そしてマオ、最後はお前の膨大な魔力を吸い込んで力を封じ込めた。魔力のない者でも威力が出せるほどのな」
「それはおかしいわ。剣はあなたの力を封じ込めたって言ってたのよ?」
「結果的には俺の力になるってことだったんだ。まあ見てろ」
先代魔王の形をしたボガートが、剣を真下に振り下ろしてくる。
一撃でも食らってしまえば一巻の終わりだろう。
先程までならここは避けるところだが――
ガキーン!!
振り下ろされてきた剛剣を、真っ向から剣で受け止め勢いよく弾き返した。七色に輝く剣の光が一層増していく。
「片手で受け止めるなんて凄いじゃない!」
「驚くのはまだ早い」
カウンターのような形になったため、ボガートは尻もちをついている。とどめを刺すなら今だ!
両手で剣を逆手に持ちボガートの頭上めがけて突き刺した。
「あ、あれ?さっきまでそこにいたのに……な、何が起こったの!?」
断末魔の叫びとはよく言ったものだ。甲高い声を上げたのち、ボガートはそのまま動かなくなった。
「腕力に任せて剣を振るっちゃ駄目だったんだ。なんせ俺は超能力者だからな」
「もったいぶらずにもっと分かりやすく教えなさいよ!」
「俺のステータスを覗いたほうが早いんじゃないか?」
誇らしげに両手を広げてからステータスカードを見せる。
散々無能者とか言われ続けてきたから一度やってみたかったんだよな。
「どれどれ見てあげようじゃないか」
俺の心を読んでかマオもニヤリとしながら茶化すことなく話を合わせてくれている。気遣い上手かよ。
【 メモリー 】
【 C級冒険者 】
【 職業 : 超能力者 】
【 ボーナススキル : 完全記憶能力 】
【 ユニークスキル : 千里眼 読心術 念動力 瞬間移動 】
【
【
「独特な言い回しだけど……要は【浮遊魔法】と【転移魔法】ね。あなたに能力の使い方を教えてあげろって意味がようやくわかってきたわ」
「ああ、この剣は念動力でしか扱えない。マオの魔力が核になっているけどな。俺は魔法を記憶して初めて超能力で使えるようになる。メモリーソードも例外じゃない。今も昔も一人じゃ何もできないのは変わってないんだ。違いがあるとすれば、お前が俺の力の元になってくれてるところ。だから俺もお前の力になりたい」
ダイヤの盾にいた頃は、攻撃、補助、戦術といった作業を効率的に分担していたに過ぎない。
逆に言えば、各々が得意な方法で暴れていただけとも言える。
お世辞にも助け合っていたようには見えなかった。
俺が作戦をねって戦術の指示を出していたつもりだったが、今思えば攻撃も防御も殆どできない口うるさいだけの存在と思われていただろう。
あいつらは我儘だったけど実力はあったからな。俺がいなくなってせいせいしてるか。
「わ、私も……私にもあなたの力が必要!」
マオが真面目な顔で目の前を飛んでいた。
「元の姿に戻りたいし魔界にだって帰りたい。みんなが先代魔王になにをされているか心配で心配で……。だからメモリー、あなたの力を私に貸して欲しい」
こいつも訳ありみたいだな。心が無防備になっているが勝手に覗くような野暮な真似はしなかった。
この世界で生まれて初めて対等な立場で人から頼りにされたんだ、裏切れるわけがない。
「当たり前だろ」
こうして始まりのダンジョンは、俺の人生再出発のダンジョンとなった。
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