第3話 マオ
「18歳になってやっと本来の力が覚醒しただと!?」
「うむ」
【マオ】と名乗る妖精の話は驚くべきものだった。
俺は別の世界から転生してきたのが原因で、12歳の時に成人できなかったらしい。
まさかその原因が、完全記憶能力によるものだったとは――
この世界で完全記憶能力は、俺自身が体現したことを記憶し
その結果、前世の【18歳で成人】の記憶が邪魔をしてエステリオ王国の【12歳で成人】という矛盾がバグを生み、いままで能力が発揮できなかった。まあ不可抗力だったのは分かるけど理不尽じゃない?
「可能な範囲ってのも曖昧だ。俺の意思とは無関係に能力が発揮されたのも困る」
「仕方がなかろう。お主は全知全能の神ではないからな。成人した今なら暴走することもないから安心せい」
今さりげなく暴走って言ったよな?
日本に住んでいた時は物事を記憶できる便利な能力程度に思っていたが。
だが、これって……
前世では魔法もないので物を浮かせるようなことは不可能だ。しかし、この魔法世界においては極々簡単なこと。ひょっとしてこの能力を上手く使いこなせれば、俺も魔法に匹敵するような力を手に入れることができるかもしれない。
「バグがあったにも拘らず天命の儀(12歳)で職業をもらえたのはどう説明がつくんだ?無能力者だのあれこれ言われて苦労したんだぞ?」
「12年も過ごせば半分はこちら側の人間じゃ。半人前と判断されて中途半端に能力を授かったのじゃろう。ピンチの時に助けられておったのじゃからあまり文句を言うでない」
「なんだそれ……。ん、おいおい待てよ?ピンチで活躍してたのはアランだ。勇者の力がなんたらとか言ってたぞ」
アランがたった1ヶ月でみんなの信頼を得ることができたのも、ここぞという場面で勇者の力を発揮したからに他ならない。周りも持ち上げまくっていたし本人もドヤ顔決めてたから疑いもしなかったが。
「ああ、あやつは――おっと、どうやら時間切れのようじゃ。急いで森の中心に向かうぞい。さもなくば体もろとも消滅してしまうからのう」
「いいところなのに消滅って一体なにを言って――!?」
絶句した。まさに開いた口が塞がらない。
マオの言葉どおり魔力喰いの森が、外側から青い光に飲み込まれ消滅していくのが見える。広大な森がほんの一瞬で草木もない荒れ果てた大地へと姿を変えていく。
「な、なんだよあれ!?」
「森は役目を終えて土へと帰るのじゃ。自然の摂理とは凄いものじゃのう」
「なに呑気なことを言ってる!とにかく走れ!」
「年寄りに無理を言うな。ワシは飛ぶことしかできんのじゃ。ふぉっふぉっふぉ」
このババア……顔も声もバリバリアイドルのくせに減らず口ばっか叩きやがって。
そもそもお前は何者なんだ?
この森にはマオしかいない。正確にはさっきまでマオの姿も見えなかった。この場にいたのも不思議だし、俺のことを知り尽くしてる感満載なのも怪しい。
聞きたいことが山ほどあるというのに、こうしている間も森はどんどん消滅している。
「あとでいろいろ教えてもらうからな!」
「年寄りだから聞こえんよ」
聞こえてんじゃねーか!だけどマジでヤバイぞこれ。ほとんど森が無くなってやがる。とにかく全速力で森の中心へと向かうしかない。
中心にさえ行けば……ってあれ?逃げ場のない場所へ追い込まれてるだけであんま意味なくない?
すでに四方は荒野と化し青い光が迫っている。とても逃げ場があるようには思えなかった。
「あれよ!あの地面に刺さってる剣に触れるのよ!」
俺の心を読み取ったマオが叫ぶ。こいつ普通に喋れんじゃねーか!
「こんな得体の知れない森深くに刺さってる剣なんて怪しさしか感じねえが――」
消滅するくらいならコイツを信じるしかない。すでに青い光は俺達に触れる寸前――俺は地面に刺さる剣に向かって勢いよく飛びついた――
ピコン!
* *
「は、ははは……なんとか生き延びたようだな」
「うむ、スリル満点じゃった」
余裕ぶっている言葉とは裏腹に、俺と同様マオの顔は引き攣っていた。視線はキョロキョロ、肩がガクガク震えて落ち着きもない。やたらと自分の体に異常がないか確認していた。
「それでここはどこなんだ?」
俺の心臓もまだバクバクしているが、安全確認が先決だ。マオの様子からして彼女にも想定外らしい。剣に触れると転移魔法が発動される仕組みだったところをみると魔道具の部類か。剣自体に魔力が宿っていて助かった。
前世で読んでいたラノベみたいに剣が手に入ると思ったが手元には何も残っていない。
うーん残念。
あたりに人影はなく空も見えない。どうやら薄暗い洞窟のような場所に飛ばされたみたいだ。
「待てよ?ここには見覚えがあるぞ。【始まりのダンジョンのボス部屋】か!」
完全記憶能力を使えば一度行った場所は決して忘れない。ここは冒険者が初めて訪れる始まりのダンジョンだ。
昔、俺もラクスと一緒に来たことがある。魔力もなく魔法で剣を強化することのできない俺の攻撃は、ほとんど効かなかった。今思えばあの時も役立たずと思われていたのだろう。
「なんで……なんでなの!?剣の所有者であるあなたが触れたら、元に戻れるはずじゃ――!?」
「……ほーう。その辺のところを詳しく教えてくれないか?マオ婆さんや」
「ひぃ!」
ひぃってまるで俺が悪者みたいじゃね―か。
「まずはお前からだ。マオ、お前は何者だ?」
「最初から言ってるじゃない。ま・お・う」
「へっ?」
マオが――魔王? 単なる俺の聞き違いかよ!? 無性に恥ずかしさがこみ上げてくるがここは冷静を決め込もう。
「俺に近づいた目的は?」
「あなたが自分から森に入ってきたんでしょ」
「うぐ」
ふてくされながらも答える彼女に反論する余地もない。俺は自らの意思で魔力喰いの森に足を踏み入れたのだから。
「魔王にしては、いささか可愛い身なりをしているな」
「え?」
「え?」
ちょ、ちょっと待て。そんなつもりで言ったわけじゃない!顔を赤らめるな!
「人間界へちょっと遊びに来たつもりが……あの剣に私の魔力を吸いつくされたのよ。なんとか体内に少量の魔力を押し留めたけど、こんなあられもない姿にされてしまったわ」
剣?さっき見かけたあの剣のことか。魔力喰いの森の正体はあの剣だったのか!
さすが魔王だ。普通の人なら為す術もなく全魔力を失っていただろう。
個人的にはマオの姿――嫌いじゃない。逆に好きまである。調子に乗らせないため内緒にしておこう。
「剣の所有者が俺だとなぜ言いきれる?」
「魔力を取り戻そうとしたら剣に拒絶されたの。これはメモリーの力を封印した剣、【メモリーソード】だって。私の魔力を奪った挙げ句に能力の使い方まで教えてやれって命令してきたからムカついたわ」
今度はプンプンと怒っている。なんとも忙しいやつだ。
だけど魔力がないのに俺の力が封印されてるなんておかしな話だ。魔力を吸うのも不気味でしかない。記憶をたどるかぎり、水晶でできた脆そうな剣に見えたけど。命令するとか意思でも宿っているのか?
「それで失った魔力を取り戻すために、剣の元へ俺を導いたのか。肝心の剣はどこにあるんだ?」
「あなた本当に何も知らないのね。まあ私も剣から情報を得ただけなんだけど。私を発見した時みたいに意識を集中してみなさい。いくつかスキルを習得してるはずよ」
「スキル?マオが見えるようになったのもそのおかげか。わかった、やってみる」
パァーン!
「ま、眩しい」
またも辺りが光に包まれる。今度は温かくて心地良い優しいなにかに包み込まれている感覚だ。不思議と力が湧いてくる。いまならどんな相手だろうと負ける気がしない。
やがて光が落ち着きを見せると、手のひらには七色に輝く虹色の水晶でできた剣【メモリーソード】が収まっていた。派手すぎだろ。
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