第2話 能力者?
「俺の人生どうしてこうなった?」
先程ダイヤの盾を追放されたせいか、久しぶりに過去の出来事を思い出していた。俺は12歳の時に、すでに最初の追放を経験している――
「魔力も
「職業は――」
「ええい、ワシに口答えをするな!そんな恥さらしの顔などもう見たくもない!今すぐこの場から出て行け!」
【天命の儀】を受けた直後、俺は父から家を追い出された。天命の儀とは、エステリオ王国に住む12歳の子供達を王宮に集めて行われる式典だ。
宮廷魔道士によって魔力量などの測定が行われ、成人になった証としてステータスカードと
一世一代の晴れ舞台で、自分の息子に魔力も職業もないと宣言されたのだ。父とすれば自分の顔に泥を塗られたのだから、追放は当然の処置だったのかもしれない。酷い話だ。
その後、母の口添えでラクスの両親に引き取られなければ、俺は野垂れ死んでいたことだろう。
「
俺はある能力のおかげで前世の記憶を持っている。日本で生まれ育ち、平凡ながらも幸せな人生をおくることができた。それが、どんな因果か【剣と魔法のファンタジー世界】へいきなり放り込まれてしまった。いわゆる転生ってやつだ。
ここは科学とかけ離れた魔法世界。文化や価値観が違うなんて生易しいものではなかった。両親にもこの話を打ち明けてみたが、そんな夢物語を父が信じるわけもなく、母はずっと沈黙を貫いていた。
実家に見放され、パーティーも追放され、ラクスには縁を切られ――
追放に対して耐性がなければ、今回も人生に絶望していたことだろう。
「ひでー話だよな」
たび重なる不幸に独り言を呟いてしまうが、それぐらいは許してほしい。俺の場合、前世でボッチだった名残のようなものだ。
むこうの世界にいた俺だ、魔力に縁がないのはある程度理解している。
宮廷魔道士が職業だけでも正しく宣言してくれれば少しは人生違っていただろうか?
いや――無理だ。人のせいにしたくはないし、冒険者ギルドでも受付嬢に職業を誤解されたくらいだ。
懐から取り出したステータスカードには、こう書かれていた。
【 メモリー : C級冒険者 】
【 職業 ; 能力者? 】
【 スキル : なし 】
「何度見てもバグってるだろこれ。能力者?って俺が聞きてーくらいだ」
【能力者?】の噂は広まり、いつの間にか大きく捻じ曲げられ【無能力者】と呼ばれるようになっていた。皮肉にも俺はある能力を持っている。なぜか分からないがステータスカードには表示されていない。
この能力はかなり優秀だ。しかし、魔法世界の中であっても異質なスキル。誰にも秘密をもらすことはできなかった。
「異端審問会にでも目をつけられたら面倒だしな」
この世界には地球で言うところの昔あった魔女裁判的なものを行う組織が存在する――という噂があった。なぜ噂なのか?目をつけられたら最後、処分されてしまうからだろう。
「こわい、こわい」
そして数時間後――ようやく目的地へと到着した。
【
エステリオ王国の最北端に広がるこの森は人々に恐れられていた。その名が示す通り、足を踏み入れると瞬く間に魔力を奪われ命を落としてしまうとか。常に濃い靄がかかり、外からはただの森にしか見えない。
かつて王国はこの土地を焼き払おうとしたそうだ。だが、多くの宮廷魔道士を動員したにもかかわらず作戦は失敗に終わる。驚くことに葉っぱひとつ燃やすことができなかったらしい。
そんな未開の土地に、俺は足を踏み入れようとしていた。
酒場であれだけ派手に無能と呼ばれた俺だ。パーティーに入れてくれる物好きなど、どこにもいるわけがない。ラクスの実家に居候していた俺には帰る場所もない。
住む場所を失った俺にとって、誰も近づけない魔力喰いの森はうってつけの場所なのだ。
森に足を踏み入れ――
「え、なにこれ?やばくね?」
突如として手足が金色に輝きだした。
「か、体が」
身動きも取れず徐々に体が熱くなっていく。
そして――とうとう光が体全体を包みこんだ。
「魔力のない俺には安全だと思っていたが、どうやらここまでのようだ――」
ピコン!!
「ひぃ!」
観念したその時、ステータスカードの通知音が鳴り響き、つい驚きの声を上げてしまった。
この音が鳴るのは、天命の儀で職業を授かった時やステータスに変化が現れたとき。12歳でステータスは凍結したも同然なんだが今更なんだ?
【 通知 : 18歳になり
【 メモリー 】
【 C級冒険者 】
【 職業 : 超能力者 】
【 ボーナススキル : 完全記憶能力 】
【 ユニークスキル : ??? 】
「は?18歳?職業が覚醒だと!?」
職業が【能力者?】から【超能力者】へと変化していた。
【ボーナススキル】とやらで【完全記憶能力】も表示されている。もちろんこの世界に超能力なんて概念はない。前世で完全記憶能力を持ってなければ俺だって信じないし。
なにより驚いたのは職業が【覚醒】したことだ。この世界で授かった職業は一生変わることがない。経験値を積んで職業に関連するスキルを獲得していくだけのはずなんだが……
???なのは気になるが【ユニークスキル】まで発現していた。たしかユニークスキルは獲得できる職業が限られていたはず。
「俺の知る限りだとエステリオ王国では勇者と聖女。あの二人しか持っていない」
もちろん複雑な想いはある。しかし、その想いを差し引いても顔は無意識にニヤけてしまう。
だってユニークスキルだろ?レアもレア、特上のレアスキルだぜ?今までの嫌なことなんて全部吹っ飛んじまう。
ガッツン!!
「ぶっふぉ!?」
後頭部に衝撃が走った。文字通り頭が吹っ飛びそうになった。目ん玉なんかマジで飛び出たぞ。
「イタタタタ……なんだよ一体……」
「キモくてこれ以上見てられんのじゃ」
「え?」
後ろを振り向くが誰もいない。いま頭の中で女性の声がしたような――
「残念じゃがまだ見えんはずじゃ」
「や、やっぱり誰かいる!?もしかしてお化け――」
「んなわけあるかー!とりあえず声のする方へ意識を集中してみい。おのずとお主にも見えてくるはずじゃ」
ここは誰も足を踏み入れたことのない秘境。魔力のない未知の生物がいてもおかしくない。断ればなにをされるか分からないので、気は進まないがひとまず言われた通り試してみた。
集中集中――
ピコン!!
「ほら、見えてきたじゃろ?」
「あ、ハエが飛んでる」
「んな!?そこはプリティー美少女にびっくりするとこじゃろ!」
もちろん、ちゃんと見えている。さっき驚かされた腹いせにからかっているだけだ。
しかし、これは――
目の前をなにかが飛んでいた。それも前世の俺好みな正統派美少女が。もちろん体もナイスバディ。完璧かよ。
変な言葉遣いをする声の正体は、手のひらサイズの小さな【
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