魔力のない無能と呼ばれて追放されましたが、実は超能力者でした!?

スズヤギ

第1話 無能力者

「メモリー、お前をパーティーから追放する」


 酒場で顔を合わせるなり、そう言い放った男の名は【アラン=イグナス】

 現在、飛ぶ鳥を落とす勢いで、ここ【エステリオ王国】に名を轟かせている勇者だ。


 隣国である【ガゼルフ帝国】の出身らしいが、個人的にどうも好きになれない。それはなぜかって?イケメンだからに決まってるだろ。


 俺の名前は【メモリー】

 アランが所属する冒険者パーティー【ダイヤの盾】のリーダーだ。

 自分の所属するパーティーリーダーを追放する?冗談もやすみやすみ言え。


「いくら勇者さまでも俺をクビにはできないぞ?」

「これは僕の独断じゃない。皆の意見を尊重してのことさ」

「……」


 アランの後ろに立つ仲間達へと視線を移す。


 無骨な重騎士アーマーナイトのガンツ。

 ずる賢い盗賊シーフのハイド。

 お高くとまった魔法使いウィザードのエミリ。

 エミリの腰巾着である回復術士ヒーラーのセシル。


 俺の偏見かもしれないが、大体こんな感じだ。誰も目を合わせようとしないので、どうやら話は本当らしい。


「俺を追放する理由はなんだ?不満があるなら聞かせてくれ」

「フッ……心当たりがないとは言わせないよ。キミがあまりにもだからに決まってるじゃないか」


 勇者の職業ジョブを持つアランが、当然だろ?といわんばかりに自慢の金髪をかきあげながら告げてきた。他者を無能扱いする勇者――世も末になったものだ。


「無能――俺に魔力がないからか?」

「フフフ」

「ククク」


 無能の言葉が引き金になったのだろう。アランを含めた5人の口元が醜く歪んでいた。その表情を見て嫌でも気付かされる。これが日頃から俺に抱いていた本来の感情なのだと。


「魔力がないから簡単な魔法も使えないとか、ほんとありえないわ」

「魔道具もです。おかげで遠征中ずっと迷惑してました」


 魔法主体の職業ジョブであるエミリとセシルが、容赦のない言葉を浴びせてきた。


 俺には生まれつき魔力がない。まったく持ち合わせていないのだ。この世界で魔力を持たずに生まれてくる者など前例がなかった。


「魔法が使えなくてもパーティーに貢献してきただろ」

「はぁ?いつ?どこで?だれが?」

「いつも御託を並べてうるせーだけじゃねーか。所詮、お前はC級止まりの三流冒険者だ。おかげでダイヤの盾はSランクに上がれねえ」


 エミリとハイドが間髪入れず俺の言葉に呼応する。迷惑をかけているのは認めるが、俺なりに頑張ってきた。


 パーティーにはランクがあり、冒険者個人にも階級がある。

 ダイヤの盾はAランクパーティー。メンバー構成は、S級が1人、S級昇格予定が1人、A級が4人で、魔法を使えない俺はC級だ。パーティーがSランクに昇格する条件として【最低S級2人以上、他A級以上のみで構成】の規約があった。


「みんなには本当にすまないと思っている。だが、以前も説明したと思うが現在の昇格試験では魔力のない俺はB級にすらなれないのが現実だ」


 ここエステリオ王国の冒険者ギルドにおいて、各人の能力を魔力の大きさや魔法の威力で判断する。もちろん剣技や様々な技量、クエスト達成などで評価されることもあるが、それはC級までの話。より命の危険が伴う上級クエストを受けるのは、B級冒険者以上で構成されるたAランクパーティーが大半だ。C級の俺が所属するダイヤの盾は、例外中の例外といえる。このまま追放されてしまえば俺は上級クエストにも参加不可能となるだろう。


「お荷物が開き直るんじゃねーよ」

「パーティーにたかるハイエナの分際で」

「実力もないくせによく言うわ」

「無能力者」


 こいつら好き勝手言いやがって。


「俺は――じゃない。お前らの使う魔法だけがこの世の全てだと思うな」


 で俺を理解できないのは仕方がない。

 【剣と魔法のファンタジー世界】で魔力がないとか笑い話にもならんからな。そのおかげで俺の職業ジョブは、たびたび見下され誤解を招いてしまう。


「それに――俺を理解してくれる人だっているんだ」


 幼馴染であり恋人の彼女だけは――


「ハッハッハ!本気でそう思うならめでたい人だ。それなら――なぜ彼女はここにいない?こんな大事な話をしてる時に、姿が見えないのはおかしいと思わないか?」


 彼女――【ラクス=ウェンブリー】はダイヤの盾に所属する冒険者。容姿端麗、頭脳明晰、人並みはずれた魔力を持ち、勇者と並ぶレア職業の【聖女】だ。


「まさか――」

「そのまさかだよ。ラクスは現在、冒険者ギルドでSランク昇格の申請を行っている」


 ダイヤの盾は、俺とラクスが共同で立ち上げたパーティーだ。発起人のラクスにも俺と同等の権限が与えられている。Sランク昇格は、C級冒険者である俺に対して事実上のパーティー追放を意味していた。


「ふふふっ、さっきまでの余裕はどうしたんだい?まあ彼女を困らせるような真似だけはしないでくれ。後のことは僕に任せてくれれば大丈夫さ」


 歓喜に満ち溢れたアランの表情がすべてを物語っていた。彼女は大きな決断をしたのだろう。


 【無能力者】と呼ばれる俺(メモリー)ではなく、【勇者】(アラン)を選んだのだ。


「魔力がなくても私がいるじゃない」


 辛い時はいつもそばにいてくれた。笑顔で励ましてくれた。二人で過ごす時間だけは幸せだった。


 最近の彼女は、先月からパーティーに加入したアランと一緒にいることが多くなっていた。アランを勧誘してきたのは他でもないラクスだ。加入して日の浅いアランの面倒を、優しいラクスが見ているだけだと思っていたが……どうやら俺はとんだお人好しらしい。


 そして――


 静まりかえる店内のドアが開いた。そして彼女が姿を現した。


「あー男くさい。だから酒場は嫌なのよ」


 この人こそ俺の愛した女性【ラクス=ウェンブリー】……のはずなんだが随分いつもと様子が違う。


「ラ、」

「こっちだよラクス」


 俺の言葉を遮りアランが笑顔で手をあげる。それに気づいたラクスも意味ありげな薄笑いを浮かべゆっくり近づいてきた。もちろんアランの隣に。


「ラクス――」

「あら、もう言っちゃったの?それならもう我慢する必要もないかしら。私はね、ずっと自分の気持ちを押し殺してきたの。うちの両親があなたを預かるようになったあの日からずっと――」

「最初から――なのか?」

「そうよ。あなたは魔力も取り柄もない無能。顔はタイプだったけど所詮は家族にも捨てられた平民でしょ?そこへ勇者である白馬の王子様が現れたらどうなるか――無能なあなたでも想像くらいつくでしょ?」


 ラクスが俺を無能と連呼する。そもそも無能と口にするのもこれが初めてだ。聖女である彼女は人を蔑む行為など決してしない。いや――していなかった。百年の恋も一時に冷めていく。


「……なるほど。パーティーだけじゃなくパートナーとしても俺は不要なわけか。ラクスが……みんながそう決めたのなら仕方がない。俺を追い出して仲良くすればいい」

「言われなくてもそうさせてもらうさ。ダイヤの盾も、もちろんもね。さあ負け犬はさっさとこの場から消えてくれないか?目障りなんだよ!」


 普段は温厚で優しい素振りを見せていたアランだが、高圧的な態度の方がしっくりくる。前から違和感を覚えていたが、これが好きになれなかった理由か。


「ちょっと、私にもっと文句を言わせてよ?長年の積もり積もった話があるんだから。男爵家の令嬢である私がどれだけこの平民に合わせてきたと思ってるの?」

「まあまあ、それくらいにしてあげたら?これ以上は彼があまりにも惨めじゃないか。それにラクスだって早く宿屋でゆっくりだろ?」

「ふふふ、もうやだぁ……。たしかにこれ以上は時間の無駄なようね。あ、わかってると思うけどこれから私の実家には二度と近づかないでくれる?私を見かけても声をかけるのもなし。は赤の他人なんだから」

「……ああ」


 恋人どころか幼馴染も否定するとはな。まあ冷めきった俺としては全然構わんが。


「とうとう捨てられたか」

「魔力のない無能だしな」


 気づけば店内がざわつきだしていた。どうやら一部始終を見ていた冒険者たちがここぞとばかりに乗っかってきたらしい。もともと美人で人気のあるラクス。無能と呼ばれる俺と付き合っていたことに不満があったのだ。


 ここに残る意味もなくなったし、さっさと立ち去るのが賢明だろう。


に行ってみるか」


 酒場全体から巻き起こるヤジも気にしない。元仲間達に目もくれず、俺は酒場を後にした。

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