第57話 学校1位、焦る
私が悲鳴をあげた瞬間、良介くんがこっちを向いてきた。
―――まずいっ! どこかに隠れないと。
とっさに木に隠れた。
あ、危なかった。
もう少しでバレてしまうところだった。
そんなことより、良介くんが、学校の女の子と仲良く帰っている。
しかも、同じメーカーのギターケースを持って。
いや、落ち着け私。
良介くんがギターを弾くなんて話、聞いたことが無い。
趣味だってゲームとプラモデル作成って、私の手帳にメモしてあるし、改めて確認した。
多分あれは、良介くんに似た別の男子高校生だったのだろう。
ちゃんと落ち着いて確認すれば、わかるはず。
そーっと覗いて……。
「――――っ!!!!」
やっぱり良介くんだった――――っ!!!!
それに隣にいるのは、良介くんの隣の席の七緒。
軽音部に入っていて、演奏も凄い。文化祭で聞いたソロライブは高校生とは思えないほど凄かった。透き通るような歌声で、体育館を圧巻させた。
そういえば、苅部も含めて一緒に遊んだこともある。
ま、まさかっ――――
同じ席になったことを機に距離が近づき、4人で遊んだ遊園地で、2人で回った時に意気投合。つい最近、付き合う。
バンドを組んで、カップルで体育館に歌を響かせちゃおうよ!
―――っていうストーリーなんじゃ……っ!?
「ごめん澪、おまたせーって、なんでそんなところに隠れてるの?」
「それに、この世の終わりみたいな顔しちゃって……」
沙良に続いて、凛子が私に近づいた。
「え、あ……な、なんでもないんだよ~……」
「いや、絶対なんでもあるでしょ。もしかして、また教師から告白されたとか?」
「う~んハズレみたいだね~沙良。とすると、推しが結婚した?」
「凛子じゃあるまいし。まさか、気になっている人が女の子と2人で帰っていたとか?」
「――――っ!?!?!?」
「「アタリね」」
「もう、本当にわかりやすいんだから~。」
凛子が抱きついて、髪をくしゃくしゃにしてくる。
「いやいや、そういうわけじゃないよ」
「え、いまさら誤魔化そうとうするの?」沙良が呆れる。「バレてるから無駄だよ」
「だから誤魔化そうとしてないって……」
「あー、そう言って手遅れになった人、私は何人も見てきているけど」
「―――――」
「沙良、澪をいじめないで。今にも泣きそうなかおしてるじゃない」
「し、してないもんっ」
「この子、今まで恋愛すらしたことないんだから」
「それってある意味レアよね」
沙良が珍しいものを見るような目で私を見てきた。
「まぁ、ここで考えてもしょうがないから、聞いてみたら? 彼氏いるって」
「そ、そんないきなり直接には聞けないよ」
「聞かないといつまでもモヤモヤは晴れないよ?」
沙良の言うことは一理ある。
このままじゃ絶対今日眠れない。
「私も沙良にさんせー!」
ようやく私から離れた凛子も同意した。
「じゃあ、聞いてみる」
私はスマホを出して、良介くんのトーク画面を開く。
とりあえず、『良介くんって彼女いる?』と打った。
ちょっとストップ。
これは直接すぎるよね。
なんて送るのが一番穏便に、怪しまれず、真実を聞けるかな?
画面とにらめっこしていると、スマホに2つの影が重なる。
「ちょ、ちょっとっ!?」
バッとスマホを胸に抱いて画面を隠す。
「凛子、見れた?」
「ダメだった。沙良は?」
「私も」
「2人とも、私で遊んでるでしょ?」
「「え、遊んでないよー」」
2人が棒読みする。
「もうっ!」 2人をジト目で見る。「あとでじっくり考えるっ」
私はスマホをポケットにしまった。凛子が
「いいの~? ここで送ったらその都度、返信を考えられるよ?」
「そしたらその都度電話する」
「それはうっとうしいよ」
「とにかく、ここで返さないから―――」
ブブッとスマホが震えた。
なんだろう?
スマホを見ると、
『藤木良介:急にどうしたの?』
「―――――っ!?!?!?」
やばい、さっき凛子達から隠した拍子に送っちゃった!!
どうしよう、どうしよう、どうしよう!?!?
「あれ、なんか急にオロオロしだしたけど、どうしちゃったの?」
「間違えて送信しちゃったんじゃない?」
沙良、めっちゃ勘がいい。
★★★
宇佐美と駅で別れたあとに、『彼女いる?』っていきなり澪から聞かれた。
急にどうした?
つか、俺に彼女なんていないの、普段の学校生活を見ていればわかるもんだと思うけど。
意図を聞いてみたが、既読がついたまま返ってこない。
よくわからないけど、とりあえず、返しておくか。
★★★
ピコン。
『いないよ』
「っ!?!?!?!?」
その瞬間、きゅっと締め付けていた胸の茨からすーっと解放された。
よかったぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~!
ほんっとうによかったぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~!!!
「あーどうやら、彼女じゃなかったみたい」沙良が言った。「よかったね」
「私ってそんなに顔に出るっ!?」
「「出るよ」」
ほっぺを押さえた。
なんて正直な顔なんだ。少しは隠してよ。じゃないとこの先困る。
「でもさ、隠しているかもね~」
「凛子っ!」
「あはは~ごめんごめん」
凛子がいじわるな笑みを浮かべる。
「昔からこういう嫌なところあるよね」
「ごめんって~。そんな口を尖らせないでよ」
まぁ、私も凛子のイジワルな発言には慣れているけどね。
でもそうなると疑問が湧く。
どうしてギターを持っているのか。
なぜギターケースが七緒と一緒のメーカーなのか。
そもそも七緒と一緒に帰るのはなんでか。
聞きたいことは山ほどある。
これ以上訊くとなると、凛子達に良介くんのことがバレてしまうかもしれない。
凛子達と別れてからLINEしよう。
私はスマホをポケットにしまい、今度こそポケットから出さないよう誓う。
家に帰り、自室に鍵を閉めて良介くんに訊いてみる。
心臓がどきどきしている。
特別な関係になっていたらどうしよう。
―――いや、平静を保って私。
良介くんとは名前を呼び合う間柄になったし、おみまいだって行った。
体育祭後の打ち上げ後に2人きりで話したこともある。
大丈夫。重ねてきたものはある。
自信を持って。
意を決して送る。
『そういえば、帰りにちらっと見かけたんだけど、ギター背負っていたよね。最近始めたの?』
ほどなくして、返事がくる。
『そうだね。最近始めた』
『そうなんだ。高かったでしょ』
『実は宇佐美から借りたんだよね』
やっぱり七緒から借りていた。ギターケースが同じだというのも頷ける。
となると、なんで七緒からギターを借りたのか。
ええい、ここは思い切って聞いてしまおう!
『どうして七緒から借りたの?』
★★★
『文化祭でステージ発表するから』という文字を打って、送信するのを止めた。
このまま本当のことを伝えてもいいが、それだとなんか面白くない。
どうせやるなら、澪を驚かせたい。
だから俺は――――
★★★
『小説でギターを演奏する描写を書きたいと思ったからさ。実際に弾いてみないと書けないかなと思って借りた』
怪しいぃぃ~~~~~~!
良介くんが言ったことだから信じたいけど、怪しいぃぃぃ~~~!!!
今までギターを弾く描写なんて何度もあったけど、さらっと1文くらいで済ませていた。
それをいまさら丁寧に描写する意味がない。
絶対に何か隠している。
でも、『嘘だ~』なんて絶対に言えない。
『いつも軽くしか描写していないのに、今回急にやるんだ?』なんて、彼女でも編集者でもない人間から言われたら腹が立つに決まっている。
そんなことは言えない。言いたくない。
だから、私は……
★★★
『そうなんだ! 七緒と仲が良いんだね! カクヨムの更新楽しみにしているね!』
いや、仲良くはない。
弱みを握られているし、教え方も結構厳しいし。
まぁたまに、めちゃくちゃ優しい時もあるけどさ。
『いや、仲良くはないよ。席が隣りなだけ』
『そうなんだ!』
『そうだよ!』
サムズアップのスタンプを送ると、
『じゃあ、明日も早いから寝るね。おやすみ。また明日!』
『おやすみ!』
こうしてLINEが終わった。
澪を驚かせたくて嘘ついちゃったな。
罪悪感で胸が締め付けられる。
この胸の締め付けは、サプライズまで我慢だ。
ギターソロをかっこよく決めて、澪を驚かせてやる。
そのために、より一層練習するぞ。
もちろん、カクヨムの更新もしつつな。
★★★
「はぁぁぁ~~~」
自分からおやすみと言ったものの、結局モヤモヤして昨日はあまり眠れなかった。
どうしよう。
まだモヤモヤが続いているよ。
とりあえず、今日1日はいつも通り過ごすことに集中しよう。
「文化祭の出し物の案が出尽くしたね。じゃあ、この中から文化祭でやるものを決めたいと思いまーす! ちなみに、食べ物系は売り上げが出たらその分利益になるからね。それも踏まえて考えてよー」
文化祭実行委員の凛子が、クラスに問いかける。
そっか。そういえば再来週の金曜日と土曜日は文化祭か。
高校2年の文化祭は、受験なしで楽しめる最後の文化祭。
悔いのないようにしたいな。
ん?
黒板に”ホストクラブ”って書いてある。
――――これだ!
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