第2章 3人の文化祭

第48話 初デート?

 朝のアラームを止めたあとの、スマホに映る日付を見る。


 日曜日。待ちに待った日。


「やっと……。やっと、この日を無事に迎えることができた!」


 俺はついにデートへ行く。


 前回は体調不良で無念の中止だったが、今回はしっかりと体調を整えた。


 準備は前日のうちに済ませ、ばっちり8時間睡眠をとった。


 下痢止め薬や胃薬など、途中で体調不良になっても大丈夫なようにバッグに詰め込めるだけ詰め込んだ。


 自分だけでなく、澪が体調崩した時にも看病できるからな。おそらくそんなことはないだろうけど。


 とにかく、これで病気によってデートが中止になることはなくなった。


 全ての準備が完了した俺は玄関に行き、靴を履いて、バッグを持ち上げる。


 ……念のため、家を出る前にもう一度バッグの中身を確認しておくか。


「うん、問題ない」


 湧き上がる喜びと緊張を胸に、俺は家を出た。


 駅につき、待ち合わせ時間の20分前に着く電車に乗った。


 緩やかに走る電車に揺られながら、今日のデート内容を確認する。


 13時に水族館の最寄駅の改札で澪と待ち合わせ。


 水族館へ直行。澪を優しくエスコートしながら館内を回る。


 水族館が終わったら、少し早めの夕食をとり、穏やかな気持ちに包まれて帰宅するというもの。


 このデートで達成するべきことは2つ。


 1つはこのデートで澪との心の距離をもっと近づけることだ。


 せっかくデートをすることになったんだ。それなのに心の距離が1ミリも縮まらなかったら悲しすぎる。


 だから俺は、秘策を用意した。


 それは、水族館で魚の豆知識を披露する。


 これによって知的さをアピールすることができる。


 澪は学年トップレベルの学力を持つ。


 正直、テストの点数で知的さをアピールするのは無理。高校受験以後、勉強してこなかったツケも溜まっているからな。


 だが、そんな澪でも、魚の知識は一般常識レベルなはずだ。


 水槽で泳いでいる魚にさりげない解説をすれば、きっと『良介くん、知的でかっこいい~』となるはず。追加効果で、普段の勉強できないイメージを払拭できるかもしれない。


 この作戦のために、今日まで魚漬けの日々だった。絶対に澪をあっと言わせてやる。


 そしてもう1つは、澪が『ミヲすけさん』であるか確かめること


 体調不良明けの朝、学校の廊下で頭にズガンときた衝撃。


 いくら自分に言い聞かせても無視できない衝撃。


 学校ナンバー1ヒロインが急に俺に話しかけた理由。


 それが明らかにするために。


 訊くのは夕食の時に訊くのがベストなタイミングだろう。落ち着いて話せるしな。


 だが、彼女がミヲすけさんじゃなかった場合、訊き方によっては小説を書いていることが澪にバレる。それは避けたい。だから、訊く前にジャブを打っていこう。


 ……そういえば、今朝投稿したエピソードの反応はどうなっているんだろう?


 ポケットからスマホを出してカクヨムを開く。


「伸びねぇな……」


 PVは4。新たなフォロー者も★レビューもない。ランキングも1000位以下。いつも通りとはいえ、この伸びなさは心に重くのしかかる。同じラブコメ枠では、9話しか投稿していないにも関わらず★300を獲得し、ラブコメジャンルで8位に入っているのに。


(どうやったら9話で★300も獲得できるんだよ。つか、1日にどれくらい読まれているんだ? 想像できねぇ……)


 落ち込んでいると、ベルマークに赤い丸がある。


 タップするとミヲすけさんから応援されていた。


 自然と笑みが零れた。


 メモ帳を開き、次のエピソードを書く。


 もし澪がミヲすけさんだったら『いつも応援してくれてありがとう』と言いたい。


 ♦♦♦


 やや展開に苦しみながらエピソードを書いていると、待ち合わせ場所の駅まであと2駅のところまできた。


 もう少しで待ち合わせ場所。そう思ったら胸がどんどん高鳴ってくる。


 スマホのカメラを起動し、自分の顔を最終チェック。


 うん、自分史上一番身だしなみが整っている。これ以上は整形しないと無理だ。


 ――――というか、先程からデートって思っているけど、デートでいいんだよな?


 ただのお礼で水族館に招待、とかじゃないよね? 澪にとっては当然のこと、みたいなものじゃないよね? 俺、カウントしちゃうからね? しちゃってもいいよね?


 となると、人生で初めてのデートだ。


 やべー、そう考えたらさらに緊張してきた。


 —――待て待て、俺。なんで緊張する。


 どんなことよりも、まずは俺自身が今日のデートを楽しむことが先だろ。


 楽しむこと。


 楽しまなきゃ澪との心の距離を縮めることはできないし、楽しんでいないのにミヲすけさんであることを確認するのはナンセンスだ。忘れちゃダメだ。


 電車が目的地で止まった。


 余計な感情を置いていくように、俺は電車を降りた。


 予定通り、集合時間より20分早く着いた。


 舞い上がっている気持ちを落ち着ける時間はある。魚の知識を予習する時間もある。


「すぅーはぁーすぅーはぁー」


 ちょっと落ち着いた。さて、待ち合わせ場所は北改札だったな。


 案内板を探すか。


 北改札、北改札はどこ――――


「あっ」

「あっ」


 周りが霞んでみえるほどの美女と目が合った。


 渚波澪。


 おしゃれな私服姿の彼女を見た瞬間、彼女以外が目に映らなくなった。


「………………………………」


 周りが色付き、輝くほど綺麗。芸能人か、と錯覚するほど。


 俺が今まで想像していたミヲすけさんとはかけ離れている。


 澪がミヲすけさんだとは、どうにも思えない。

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