第42話 素直に、正直に
ちゅんちゅん。
すずめのさえずりでぼんやりと意識が戻る。
カーテンの隙間から差し込む光が、俺の身体を横断する。
朝か。
………………朝?
無意識に唾を飲み込んだ瞬間、喉に激しい痛みとともにどっと体が押し付けられる感覚が襲い掛かってきた。
まだ治っていないか。
ぐっすり寝たはずなのに、身体中に疲れが残っている。
気力を振り絞って床に落ちているスマホを拾ってディスプレイを見る。
9月24日火曜日。
学校だ。
でも、感覚でわかる。昨日より少しマシになったが、まだ熱がある。
高くて37.8度だろう。体温計を脇に挟んで待つこと30秒。
ピピピっ!
「う~ん、38.6度か。俺の勘も、意外とあてにならないな」
いや、それよりも普通にやばくないか。
市販の薬を飲んでいるのだが、あまり治りはよくない。
なにより喉が焼けるように痛い。
今日は休もう。
その前に高校に電話しておくか。あとで高校から連絡がかかってきても面倒くさいからな。
電話で欠席を伝えた後、冷蔵庫の中を物色した。
昨夜は冷凍白米をチンして、YouTubeでお粥の作り方を真似し、それを食った。
味が全くなかったのだが、母親が作ったブタの角煮よりは食べられる気がする。
飲み込む度に喉に激痛が走ったが、我慢して食べるだけ食べ、市販の薬を飲んでさっさと寝た。
その結果がこの治りの遅さである。
米だけじゃダメだ。野菜を取らないと。
でも料理するのめんどい。
台所に立つのすらしんどいのに、料理もやるのは無理だ。
それに2回連続のおかゆを作る意欲も湧き出ない。
確かお菓子の棚に『inゼリー』があったはず。
それを飲むか。
ブブッとスマホが震える。
誰だ?
『おはようございます!
体調、いかがでしょうか?』
渚波……っ!
こんな嬉しいことがあるなんて。
駄目だ、泣きそう。
いや、泣くのはまだ早い。返してからじゃないと。
『おはよう。
まだ熱があって、今日は学校休むわ』
『あらら(+_+) お大事に!
体をしっかり休めてね!』
ありがたい。
デートの約束すっ飛ばした俺に、まだ優しい言葉をかけてくれるのか。
なんて優しいんだ。ダントツミスコン1位なのも頷ける。
俺は素直に感謝のメッセージを送り、スマホを置いた。
1日でも早く治して、改めて謝ろう。
そういえば、小説の更新も止まっている。
小説も書き始めないとまずいが、渚波に直接謝る方が大事だ。
渚波に直接謝るため、そして待ってくれているだろうミヲすけさんのためにさっさと治そう。
★★★
「はぁ~~~~………………」
藤木くんからのメッセージを読んだ後、私はため息をつきながら外を見た。
5秒でグラウンドをぐしゃぐしゃにしてしまうのではないかと思うくらい、激しく降り注ぐ雨。
灰色の空は見るだけで気分をどんよりさせる。
藤木くん、大丈夫かな。
2日続いて熱が出るってことは、かなり厳しい熱なんだろう。
今、きっと辛いはず。
――――お見舞いに行きたい。叶うなら、藤木くんの看病がしたい。
でも、彼女でもない人間がお見舞いに行って嫌がったりはしないのだろうか。
「ミオリン~」
凛子が私の前に来た。一旦考え事はストップ。
「どうしたの、アンニュイな表情でため息ついちゃってさ~」
凛子がからかうように言ってくる。
「いやぁ、何も~……」
「何も~ってことはないでしょ、話なさいよ~」
ほっぺをぐりぐりしてくる。
「うっわ、肌スベスベ」
「ありがと」
「化粧しないでこの顔ってずるいよね」
「凛子だってそうだよ」
「バカ言って。化粧しないと街歩けないよ」
「そんなことないでしょ」
「は~、いいよね~澪は顔綺麗で。私もそんな顔に生まれたかったよ」
凛子は隣の席に座った。
藤木くんの席。
……ちょっと交換して欲しいかも―――なんて。
「凛子の方が可愛いのに」
そういえば、凛子って今までに彼氏2人いたんだっけ。ちょっと訊いてみようかな。
「凛子って熱が出て辛い時に、彼氏にお見舞いとかされたら嬉しいって思う?」
「なになに~? お見舞いしたい人でもいるの~?」
「ちっ、ちがっっ!! えっと……そうっ! マンガ! マンガでお見舞いシーンがあって、それでっ!」
「マンガねぇ~。なんていうマンガ?」
「………………~~~~嫌い」
「ごめんごめん、嘘だよ。だからそんな睨まないで」
凛子が私の頭を撫でてくる。
もう、からかって。凛子ってこーゆーからかうところあるんだよぁ……。
「う~ん、人によるかな。でも、私は来てほしくないかも。変に気を使っちゃうし、風邪でボロボロな姿はあんまり見られたくないなぁ~」
「そうだよね……」
わかってた。
私も、お見舞い来てほしいかと言われたら、半々。
凛子や瑞香が来てくれたら嬉しい。
でも、藤木くんが来てくれたら、嬉しいと思う反面、弱っている姿を見て欲しくないって思っちゃう。
気になる人には完璧な姿を見てもらいたい。
「でもさ」
凛子は温かく微笑む。
「人それぞれだからね。澪がしたいようにすればいいんじゃない?」
「したいように?」
うん、と頷く凛子。
「いてもたってもいられないなら、やったほうがいいよ」
「そうだよね! ありがと、凛子!」
「かわいい~。恋する乙女って感じ」
「こっ、恋っ!? 違うってもー。馬鹿にしないで」
あっはは~、と凛子は自分の席へ戻っていった。
悩んでビクビクしていても意味がない。
迷惑かもしれない。自己満足かもしれない。
でも、私に出来るお礼はこれしかない。
決断した私は、机の上にスマホを置いてゲームに熱中している男子に近づく。
「ねぇ、山下。教えてほしいことがあるんだけど」
「ん? ……え、なぎさわ……な……なにかなっ?」
山下の声は
「えっと…………藤木くんの、家の場所」
「藤木の……?」
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