第40話 準備万端…………?

 ★★★


 体育祭翌日の朝。日曜日。


 いつもなら昼まで寝ているのだが、今回に限っては朝から起きていた。


 なんと、急ではあるが明日、渚波と2人でデートすることになったのだ。


 昨日の打ち上げの後、渚波からLINEが来た。


『さっき話した水族館だけど、いつ空いてるー?』


『部活とかバイトとかやってないから、完全にそっちの予定に合わせられるよ』


『じゃあ……急だけど明後日は?』


『いいよ』


『じゃあ、決まり! 楽しみ~!』


 こんな感じでさくっと会う日が決まった。


 渚波と2人で遊びに行く。


 普通なら考えられないが、なんか奇跡が起きた。


 この奇跡、無駄にはしない。


 しかしだ。


 俺は生まれてから一度もデートなんてしたことがない。


 どうすればいいのだろう。


 そもそも何を着ていけばいいんだ?


 パーカー? 


 ラフ過ぎるだろう。


 ジャケット? 


 気取りすぎだよな。


 回り回って制服? 


 絶対にない。


 ……………どうすりゃいいんだ。


 昨日の夜、慌てて知恵袋に質問したが、そもそも解答が返ってこなかった。過疎っていた。


 そこで俺はわらにもすがる思いで山下に電話した。


 5コール目にしてやっと山下が眠そうな声で、


「今何時だと思ってんだよ」


「8時半。始業のチャイムが鳴るころだな」


「間違えた。今日何曜日だと思っているんだよ」


「日曜日。でも早起きは三文の徳っていうらしいぞ。お前にも何か良いことがあるかもな」


「マジでお前ボコす」


 不機嫌な山下をなだめつつ本題に入る。


「実は俺、デートすることになったんだ」


「エッッッッ!?!?!?!?」


 名前は出さないでおいた。


 本人に断りもなく名前を出すのは良いことではない。それに変な勘違いが生まれたら渚波が可哀想だ。


 色々悩んでいることをぶちまけたあと、「なんか、デートに役立つ豆知識とかない?」と締めくくった。


 恥を承知で言ったんだ。何かしら力になってからるはず。


「あるよぉ~」


 やはり山下。いざという時は頼れる。


「おお!」


「なんだ?」


「出会ってすぐに手を引き寄せ、豪快にハグ。これでどんな女のハートもがっちりゲットだぜ」


「それさ、嫌われる一直線だよね」


「大丈夫」


「大丈夫なわけねぇーだろ!」


「なぁ、もういいだろ。さっさと本当のこと言おうぜ。な? デートなんて嘘なんだろ?」


「残念だったな、これが現実なんだなぁ~」


 山下は絶句した。そんな山下に俺はさらに畳みかける。


「ま、お前にも良い出会いがあるだろうよ」


「お前っ! いい気になりやがって!」


「お前こそ、彼女がいたころは頼んでもねぇのにノロケてきたじゃねぇか! 俺はそれを聞いてやったのに、そんなこと言うのか!」


「聞いてねぇだろ! つか、オマエ相槌をAV女優のあえぎ声にしてたじゃねぇか。話す度に『アァン♡』って頷かれる俺の気持ちわかんのかよ! それにな、冷静に見たら俺の元カノなんてトカゲだぞトカゲ!」


「元カノ悪く言う奴、モテないぞ」


「うぜ。もうモテた気になってんの、うぜ」


「あ~あ、お前と無駄話しだぜ」


「こっちのセリフだわ」


 スピーカーから大きなあくびが聞こえた。


「俺もう一度寝るわ」


「おやすみ。二度と目覚めんなよ」


 電話を切った。


 くそ~、喉がイガイガする。大声出したせいだ。


 まぁ一日もすれば治るだろう。


 それよりも、何を着ていくかだな。


 いや、そんなことよりも金おろさないと。


 デートっていったら奢りだよな。


 ぶるっと震える体で服に着替え、部屋を出た。とりあえずお金をおろし、安いけど安そうに見えない服を買った。


 布団に入る。いつもとは違う肌寒さを感じた。秋も深まってきたのかな。


 ♦♦♦


 アラームの音がやかましく感じた朝。


 アラームを止めようと腕を伸ばそうとした瞬間、あれ、なんか腕が重い。


 そして身体がめちゃくちゃ熱い……。


 身体中、汗びっしょり。パジャマの首元がめちゃくちゃ冷たい。


 あれ、これもしかして……………やばい?

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