第29話 クラス対抗リレー 女子の部

「続いて、2年女子のクラス対抗リレーになります。選手、入場!」


 歓声が大きくあがる。


 目玉競技なだけあって、学年ごとに入場する。


 一列に並んだチームが、アナウンスの指示に従って入場門ゲートから走ってくる。


「2組、頑張れー!」「4組、ここでしっかり勝っていけーっ!」等々、様々な応援がグラウンド中に響き渡る。


 この


 なかには、「澪ちゃーん!」「頑張れミオちー!」「澪ちゃん可愛いよー!」といった、応援も混ざっていた。


 恥ずかしい。


 でも、応援してくれるのは嬉しいので、声が聞こえたほうに手を振る。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」


 歓声が返ってきた。やっぱり恥ずかしい。


 こんなのはミスコン以来。


 入場しながら、私はとある1人の存在を一生懸命探した。


 あ、見つけた。


 ――――藤木くん。


 藤木くんは最前列で、私達を見てくれている。


 心臓が高鳴る。


 見られているという緊張と、見てくれているという嬉しさ。


 あ、目が合った……っ!


 ゆっくりと頷く藤木くん。険しい表情。


 もしかしたら心配してくれているのかも。


 大丈夫。


 安心して。


 思ったより足は痛くないから。


 心配ないよという思いを込めて、私は藤木くんへ手を振った。


 藤木くんも手を振り返してくれた。


 リレーメンバー一同、指定位置に着く。


 傾いてもなお、圧倒的存在感を放つ太陽。


 その日差しに心地良さを感じながら、私は深呼吸し、気合を注入するために髪を結び直す。


 —――待ちに待ったリレー。今日、この日のために私は毎日練習してきた。


「さて、選手のみなさんがスタートラインに立ちました。果たしてどんな走りを見せてくれるのか。楽しみであります」


 先生がスターターピストルを掲げる。


「位置について……よーいっ!」


 パンッ!!


 ♦♦♦


「トップの2組に4組どんどん距離を詰めていく!」

 

 スタートは2組に遅れを取ったものの、2走者目の望海のぞみが段々と距離を詰めていく。


「がんばれ! 望海ーっ!」


 テイクオーバーゾーンの入口へ立った私は、喉が枯れるくらい精一杯叫んだ。


 それに応えるかのように、伸ばせば手が届く距離まで2組に迫っていく。


 やっぱり望海は速い!


 もう少しで抜くところで3走者目とバトンタッチする。


 ここでアクシデントが起きた。


「――――っ!」


 なんと、ライバルの2組がバトンの受け取りにつまってしまった。


 びゅっ!!


 その隙に望海からのバトンをスムーズに受け取ったつむぎが2組を華麗に抜かす。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」


 グラウンド中に響く4組の歓声が私の身体の芯にずっしりとかる。


 ズキリ……。


 痛む右足を睨む。


 負けない。負けないよ。


 アンカーだもん。負けたら挽回出来ない。


 2組をじりじりと引き離した紬が、もうすぐそこまでやって来る。


 鼓動が早くなる。


 足の痛みで初速が遅くなるのはわかっている。だから――――


 私は、練習の時よりも早くテイクオーバーゾーンをスタートする。


 そのまま後ろを確認することなく、紬の掛け声をまちながら走る。


 ……まだ。


 …………まだだ。


「澪!」


 紬の声が聞こえた途端、私は後ろに手を出す。


 パシッ!


 バトンを掴んだ。


「お願いっ!」


 紬の必死の声を背に、私はグラウンドを思いっきり蹴った。

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