第26話 体育祭 午後の部

 ★★★


 ピーンポーンパーンポーン。


「時刻は13時30分。ただいまから体育祭午後の部を開始します。プログラム9番、応援団による応援披露です」


 次の瞬間、誰もが聞いたことあるアップテンポな洋楽が爆音でかかる。


 1,2、3年生の同じ数字のクラスが合同で踊る。


 1から順にあがっていく。そして最後から2番目の4組。


 渚波澪わたしは、親友の2人に声をかける。


「いってらっしゃい!」


「うん!」


「ありがとう、いってくる!」


 凛子と沙良率いる4組の男女応援団が勢いよくグラウンドに入場した。


 ピカピカの白いスニーカーにイエローのダボッとしたボトムスを大きく動かして踊る。


 黒いショート丈のシャーリングトップスから見える引き締まったお腹が見える。去年、仲の良いメンバーで海に行った時よりも引き締まっているかも……。


 その鍛えた身体を駆使したキレのある踊り。


 見てるだけでテンションが上がる。自然と身体を揺らしてしまう。


 2人とも練習、本当に頑張ったんだなぁ。


 せいいっぱい、応援を楽しんだ。


 大盛り上がりで応援披露が終わると、今度は全体種目の綱引きとなる。


 各学年5クラス。


 総当たりしていると時間が無いので、トーナメント式となっている。


 対戦相手は体育祭前に行われたくじ引きで決まっていた。


 運の良いクラスはシードを獲得している。


 私達4組はシードを外しただけでなく、綱引き1位との前評判を持つ2組と戦うことになった。


 ここまで順調の4組。


 対する2組は僅差で2位。


 もし4組が綱引きで負け、2組が綱引きで1位になったら逆転されてしまう。だから、綱引きで3クラスに勝って点差を引き離しておきたい。


 1年生の綱引きを見ながら整列する2年生。


 さっきの応援披露もあって、みんなテンションが高い。


「なぁ、俺から1つ提案なんだけど」


 苅部がみんなに呼びかける。私含め、クラスのみんなが注目する。


「並び順、ちょっとかえよう! ネットで調べたけど、こうした方がいいって書いてあってさ。みんなどう?」


「へぇー、別にいいんじゃない? 澪はどう思う?」


 苅部が見せた並び順は、背が大きい人と力がある人が均等に配置されたものだった。


「いいんじゃない?」


 苅部の友達の的場が賛成する。次いで、凛子、沙良も賛成した。


 もちろん、私も賛成した。


 正直、綱引きの効果的な並び順はわからない。


 苅部はバスケ部のエースで、運動も出来る。


 何より、並び順を一から考えた苅部のやる気を信じたい。


「オッケー! じゃあみんな、こんなふうに並んで」


 苅部の指示通りに並ぶ。


 私の前は御代というクラスで一番背が高い男子で、後ろは苅部だった。身長が大きいペアに囲まれている。


 ついでに藤木くんは前から3番目。彼の後ろは凛子だ。羨ましい。


 あ、2人でなんか話している。それとなく聞き耳を立ててみるけど、周りが騒がしくて聞こえない。


 何話しているんだろう? 気になる……。


 どうにかして聞く方法を考え始めたところで、太鼓の音が鳴った。


 2年生の出番だ。


 太鼓の音に合わせて両クラス並ぶ。


 緊迫した空気が流れるなか、両者静かに待つ。


 前を向くと、藤木くんの後頭部が見えた。


 今日のお昼、弁当を美味しそうに食べてくれたことを思い出す。


 よかったなぁ~。昨日からLINEの返事そっちのけで作ったことや、朝4時に起きた甲斐があった。


 綱引き、絶対勝ちたい。勝って一緒に喜びたい。


 審判を務める先生がスターターピストルを掲げる。


「位置について!」


 縄を触れた手に緊張が走る。


「よーい……」


 パンッ!


 身体が反応するまま、縄を持って立ち上がって思いっきり引く。


 応援する保護者や先生達の声、試合を実況する声に包まれながら、無我夢中で綱を引く。


 うっ、綱が擦れて痛い。


 ジリジリと相手側に引っ張られている。


 このままじゃ、負けちゃうっ……!


 ここが踏ん張りどころなんだ!


 思いっきり足を踏ん張ろうとした瞬間、


「―――――っ!」


 右足がぐにゃりとした瞬間、激痛が足首に走る。


 思わず足を踏み外して、綱にぶら下がる形となった。


 やばい、何か踏んだんだ。さっき。


いっつ……!」


 すぐ後ろで苦しい声が聞こえた。苅部の声だ。

 

 私が踏んじゃったんだ。


「ご、ごめん!」


 申し訳ない気持ちが押し寄せるスピードと同じスピードで、綱が相手側に引かれる。


 パンッ! パンッ!


 終了の合図が鳴る。


「勝ったのは、2組です! 1回目は2組が勝ちました!」


 2組の歓声が、4組の激励の叫びを掻き消す。


 負けた……。


 悔やむ間もなくドドンッ、と太鼓の音が鳴る。綱引きは3回勝負だ。


 場所をかえて、すぐに2回目が始まる。気持ちを切り替えないと。


 太鼓の音に合わせて移動しようと足を踏み出した時、


いたっ………」


 足首に走れないほどの激痛が走る。


 —―――うそ……リレーがあるのに……。

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