第33話 クラス対抗リレー 男子の部

 ★★★


「クラス対抗リレー、男子の部に参加する生徒は、校舎前入口に集まって下さい」


 アナウンスが指定する場所に向かう。


 整列場所の少し手前に山下がいた。俺を見つけるなり、手を挙げる。


「目撃者がもう1人見つかってな。晴れて苅部はクロだよ」


「そうか」


 苅部がやったのか……。


 怒りが沸々と沸いてくる。この怒りを苅部へぶつけるんじゃなく、走りに乗せるんだ。


「あとな、走る順番だが、お前が走る時の並びが1番速いらしいぞ。仕組まれたんだって」


「マジか」


 覚悟しておこう。


「苅部のクソ野郎なんかに負けんなよ」


「今は味方だろ」


「苅部よりも速く走れよってことだよ」


 右ポケットがブブッと震えた。


 やべ、スマホを入れっぱなしだった。


 渚波からの連絡かな。期待を胸にスマホを見る。


 宇佐美だった。

 

『1位にならなきゃジュース奢りだから』


 …………まぁ、アイツなりに応援してくれているんだろう。


 だが何度でも思う。直接言ってくれ。


『レッドブル買ってやるよ』


『いらない。キリンレモンね。2ℓの』


 レッドブルより高い飲料水を出してくるあたり、がめつさが窺える。


『ああ、2位以下だったら奢ってやるよ。そのかわり1位になったらハイチュウな』


『いいよ』


『忘れんなよ』


 メッセージを打ち終わった俺は、山下に向かってスマホを投げた。


「預かってて」


 山下は片手でスマートにキャッチ。


「普段なら駄賃を要求するが、今日だけは特別な。…………がんばれよ。ちょっとだけ応援してる」


「サンキュー」


 色んな人の期待を背に、俺は整列場所へ行った。


 すでに4組のメンバー揃っていた。


 1走から順に苅部、クラスで3番目に速いサッカー部の荏原えばら純一じゅんいち、クラスで2番目に速いバスケ部の渡会わたらい清峰きよみね、そして俺。


「おせぇよ」


 苅部の棘のある言葉に少し苛立ちながらも、俺はなるべく気にしない素振りして準備体操を行う。


 悔いを残さず、ベストを尽くす。


 そのためには始まる直前まで体を柔らかくし、緊張を解きほぐす必要がある。


「気合入ってんな。お前だけだぜ、準備体操やってんの」


 好奇な目を向ける荏原に「まぁね」と返した。


 整列場所で俺の準備体操をしているのは俺くらいだった。俺以外の選手はみな雑談している。あれもおそらく緊張をほぐすためだろう。


「とにかく悔いは残したくないんだ」


 自分に言い聞かせるつもりで言ったが、想いはチームメンバーにも伝わったようで、


「俺もやっとこうかな」


 荏原が俺を真似ると、「俺もー」と渡会が便乗した。


「何やってんだお前ら。初めて出るわけじゃねぇのに」


 苅部の強めの語気に渡会はすぐにやめたが、


「準備大事だろ。それに暇だし」


 荏原は一通りストレッチを済ませた。


 前にいる体育祭委員が声を張り上げる。


「もうすぐ入場するんで、走順通りに整列してくださーい」


 体育祭委員の指示に従って並んでいるなか、苅部が嫌な笑みを俺に見せる。


「アンカーはお前だ、藤木。足引っ張んじゃねぇぞ」


「わかってる。あ、そうだ。渡会、バトン渡す時に『ハイ』って言ってくれよ」


 渡会に要求しつつ、俺は対戦する奴らを見た。


 体操着の出口から伸びている腕や脚の筋肉を見る限り、どうやら全員スポーツ系の運動部に入ってそうだ。


「……ちなみに、うちの陸上部の成績はどうなんだ?」


「さぁな」と素っ気なく返す苅部のすぐあとに、荏原が答える。


「少なくとも県大会で結果は残してないんじゃね。のぼりとか出てないし」


「そうか」


「それを聞いてどうするんだよ」


 苅部が挑発するような言い方をしてきた。最初は苅部の強圧的な態度が恐かったが、段々と苛立ってきた。


「いや、別に」


 ――――これなら勝てる。


 ドドンッ!


 太鼓の音が鳴り、スピーカーがキーンと金切り音を出す。


 話し声が止む。俺も準備体操を止めた。


 選手一同が前を向く。


「続いて、2学年男子のクラス対抗リレーです。選手、入場っ!」

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