第15話 3分の1の賭け

 いつもの渚波と違う。


 どこか暗い。


 なんか嫌なことでもあったのだろうか。


 う~ん、心当たりはあるなぁ。


 ちょっと見てしまったな。


「とにかく行くか」


 苅部が歩き出すと、それに澪がついて行った。


 横並んで歩く2人の後姿を見て、俺は納得してしまった。


 人には身の丈に合った恋愛があるのだと。


 特に苅部に関しては、性格は別として顔は本当にかっこいい。


 すれ違う女性が苅部のことを見る。


 渚波も同じだ。すれ違う男性が彼女のことを見る。


 生きている世界が違い過ぎる。


「なにぼけーっとアホ面してんの?」


 宇佐美が憎たらしく小突いていく。


「あ、アホ面って……」


 それは酷くね?


「別に。あの2人、お似合いだなぁって思ってただけだよ」


 前を歩く2人の背中を指差す。


「まあ、美男美女って感じでいいんじゃない」


 やっぱり宇佐美もそう思うのか。


「顔だけ見ればね」


「顔だけ?」


「総合力じゃ全然釣り合ってないよ。苅部じゃあね」


 吐き捨てるように言った。


「お前、苅部とは友達じゃないのかよ」


「友達だよ。男子の中ではよく遊ぶ方。でも、恋愛対象としては全く見てない」


「なんでさ?」


「性格が悪いからね。ウチと同じで」


 息を吐くように言った。


「ふーん」


「ここ、否定するところだから」


「残念なことに否定できない」


「はぁ? ウザ。死ね」


 宇佐美は早歩きした。そのおかげで苅部達に追い付いた。


 ちょっと元気なった。


 せっかくの遊園地なんだ。何があったとしても楽しまなきゃ損だろ。


 …………入場料も馬鹿にならないしね。


 4人揃って入場したところで、苅部が俺含むみんなに訊く。


「まず何乗る?」


「最初は4人いっぺんに乗れるやつがいいよね」


「藤木にしては良い案出すじゃん」


 俺が提案に宇佐美が毒を吐きつつも乗った。腹立つが、さっきの借りがあるため何も言わなかった。だが宇佐美よ、これで貸し借り0だからな。忘れんなよ。


「澪もそれでいい?」


「うん」


 渚波の返事を聞いたところで苅部がパンフレットを開いた。


「じゃあ、最初はここ行こう」


 ♦♦♦


「いやぁ、意外と濡れたなぁ」


 2つ目に乗ったウォータースライダーのアトラクションの出口で、俺は濡れた部分を確認した。


 右腕と右脚がちょっとだけ濡れた。だけど、このぐらいだったら昼頃には乾くだろう。


「俺も髪濡れたわ」


「私も左腕がちょっと濡れちゃった」


 苅部は髪をかき上げ、渚波は濡れたところを手でさすった。


 で、一番濡れたのは、


「サイアクッ!」


 宇佐美だった。最後の落ちるところで水を思いっきり被り、右腕と右脚が濡れた。


「うわっ、靴下まで濡れたわー」


 本人すげー萎えている。


 だが慰める気は起きなかった。それどころかスカッとした気分になっている。


「日頃の行いが良いから濡れたんだよ」


「は?」


 挑発すると、案の定乗ってきた。


「いやぁ、羨ましいなぁ。水のアトラクションで水を被るなんて、遊園地の醍醐味じゃないか」


「うっざ。くらえ!」


 宇佐美はびしょびしょの手で俺に触ってくる。


「オマエも濡れろ」


「うわっ、触んな! 濡れるだろ!」


 そのおかげで、右腕が冷たくて嫌になった。


 はしゃぐ宇佐美や、そのやりとりを見て笑う苅部たちのなか、渚波だけは上手く笑えていなかった。


「とりあえずさ、4人で写真撮んね?」


 苅部は言いながらスマホの画面に俺達4人を収める。そのまま何も言わずシャッターボタンを3回ほど押した。


 全員で撮った写真を見る。


 いい写真だ。いい具合に宇佐美が不貞腐れてる。そして渚波の眩しいくらいの笑顔が凄い。ただでさえ顔が小さいのに、一番後ろにいるからとても小さく感じる。なんなら、その効果で俺の顔が大きく見える。美人って罪だな。悪気なく人を斬っていきやがる。


「そろそろ昼飯でも食うか」


 苅部の発言に皆が頷き、4人でフードコートに入る。


 苅部と渚波がカルボナーラ、俺がラーメン、宇佐美がオムライスを食べた。


 主に苅部と宇佐美が話しているのを、俺と渚波が笑いながら聞いていた。


 昼食も無事食べ終わり、次にどこ向かおうかとみんなで話し合っていたところ、「あ、どうせならさ」と苅部が提案する。


「ここって2人組の乗り物が多いから、グーパーして2:2で分かれない?」


「まぁそれもいいかもね」


 苅部の提案にいち早く同意したのは、宇佐美だった。


「2人はどう?」


 今回、俺がこの遊園地に来た最大の目的は渚波との距離を近づけるためだ。


 しかし、遊園地に来てから渚波とゆっくり会話することがなかった。


 上手く話しかけることが出来なかったし、4人で話していても繋がることが出来なかった。


 これは多分、3人以上で行動したことが修学旅行以外にないという、俺のコミュニケーション能力のせいだろう。


 このまま4人で行動しても、渚波と距離を詰められるようなことは出来ない。


 もし遊園地で距離を詰めるなら、2人だ。                                                                                                                                  


「俺もそれでいいよ」


 一緒になれる確率は3分の1だから、ここで上手く決める必要がある。


 最後の発言者である渚波も「私もいいよ」と頷いた。


 4人、机の上に拳を出す。


 確率は3分の1。


 運は掴み取るものだ。掴み取らなければ、俺は一生負け犬だぞ。


 苅部が音頭をとる。


「グーっとパーっで」


「「「「わかれま―――」」」」


 





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