第14話 疑惑は確信に
降りた電車のドアが閉まり、列車がゆっくりと発車していく。
「はりきり過ぎた」
待ち合わせ時間の8分前に着くはずが、15分前にたどり着いてしまった。
アラームより10分早く目が覚めてしまったのだ。スマホで時間を見たときは自分の浮かれ具合に思わず呆れて笑ってしまった。どんだけ楽しみにしていたんだよ。
さっき、苅部から『ちゃんと遅刻せずに来ているな』って電話がかかってきたけど、アイツは俺の馬鹿さ加減を知らないな。
電車を降りた家族連れやカップルが、楽しそうに話しながら駅の出口ヘ向かっていく。
のろのろと歩く俺を抜いたカップルの背中に、俺と渚波の姿を重ねてしまう。
俺もあんな風に話せるかなぁ……。
アホか、俺は。何を期待してるんだ。
そんなこと気にしてると、緊張して話せなくなる。変に気取るな。
空は雲一つない、見事なお出かけ日和。遊園地を楽しむには最高の天気だ。
だからまずは遊園地を楽しむんだ。
と言い聞かせても心臓は正直だ。鼓動が早くなってやがる。
もしかしたら待ち合わせ場所にいるかもしれない。
待たせたら悪い。さっさと行こう。
早歩きで待ち合わせ場所に行くと、思いがけない人物が神妙な顔つきでスマホをいじって待っていた。
あと1人って、宇佐美だったのか。いつものロングのストレートをゆるめのお団子ヘアにアレンジしている。若干のウェーブがかかっていることから、アイロンで巻いてきたのだろう。ストリート系の服とマッチしていて、不覚にもイイなって思ってしまった。
宇佐美の奴、休日はこんな工夫もしてくるんだな。
「おっす、早いなー」
挨拶しながら宇佐美に近寄ると、こちらを一瞥し、
「ナンパなら間に合ってまーす」
スマホから目を離さなかった。
「ナンパじゃないだろ」
「その手口、使い古されてるから。3点。出直してきて」
憎たらしい笑みを俺に見せてきた。
「ナンパされたことあんのかよ?」
「しょっちゅう」
「強がんなって」
「ごめんマジ。モテない人にはわかんないかぁ」
宇佐美のやろう、顔が可愛いからって調子に乗りやがって。
「つか早いな。何時からいるんだ?」
宇佐美はスマホをしまう。
「多分藤木の一本前」
とすると、25分前には着いていたということか。
「早いねー。楽しみにしてたんだな」
さっきの仕返しにからかってみる。
「ウザい。黙れ」
宇佐美は頬を赤くした。顔に出やすいタイプだな。
「それにしても、よく来たな。この謎メンツで」
宇佐美は自分を強く持っている。行きたくなかったり、やりたくないものは全て拒否する。
「そりゃーね、これ持ってるからね」
宇佐美が財布から1枚の紙を出して、俺に見せつける。
「無料券じゃん! どうしたの?」
「ウチのお母さん、よりみちランドの株持ってて、その配当」
「マジかよ! いいなぁー」
「そう、いいでしょ! バカ高い入場料を払わなくて済むわけ」
ふっふ、と宇佐美はドヤ顔を見せつけてきた。
「じゃなきゃこんな謎メンツと来ないから」
たしかに。
宇佐美って苅部とは話しているところをよく見るけど、俺とも渚波とも仲良いわけじゃない。
「マジで人選謎だよなぁ。なんで俺を誘ったんだろう?」
「さぁ……?でも、タクトが澪を誘った理由はわかるよ」
「付き合いたいからだろ?」
「知ってるんだ」
「大体察するだろ。この大して仲良くないメンツで集まること自体さ」
「ふーん。まぁタクトの恋路とかどうでもいいけどね」
宇佐美は吐き捨てたが、俺としては気になるところだ。
苅部が渚波に好意を持っているとは確定だとして、渚波は苅部のことをどう思っているのだろうか。
時間を見る。
待ち合わせ時間まであと10分か。
鼓動がどんどんうるさくなっていく。
早く来ないかな。
★★★
苅部が伝えてきた待ち合わせ場所に独りで待つ渚波。いつもなら暇つぶしにスマホをいじって時間を潰すのだが、今日に限ってバッグをぎゅっと握りしめて下を向いていた。
行く前に3回、家を出てから待ち合わせ場所に着くまでに4回、身だしなみを確認した。それでも不安は拭えない。
そんな渚波の下に、長身の男が近づく。
「よ、お待たせ。渚波」
「あ、苅部。おはよう」
渚波は普段の表情で挨拶した。
「あれ、なんか硬いよ?」
「じゃ、行こっか」
「え? まだ藤木くんが来てないよ」
「あー、それね。アイツ、早く着き過ぎちゃって、ここで待っているのも面倒だから先に駅へ行くわってさっき電話できた」
「え?」
信じられないと言わんばかりの渚波、苅部は通話記録を見せた。
「先に行ったんだって。待っててくれてもいいのにな。みんなで行く時間も楽しいのに」
渚波は硬い表情が、少しだけ曇る。
「さ、行こうぜ。渚波」
「うん……」
渚波の暗い表情を見て、苅部は人知れず口角を上げた。
★★★
待ち合わせ時間まであと4分をきったところで、苅部と渚波が2人横並びで来た。
—――マジか。
美男美女カップル。
絶句したあと、最初に浮かんだ言葉がこれだった。
文春にすっぱ抜かれた、イケメン俳優とお忍びデートって感じがする。
「おお、はやいなあ」
苅部が軽いタッチで言ってきた。
あれ、こいつこんなフレンドリーな奴だっけ。その爽やか笑顔も初めて見たぞ。
「まぁ、早く起きちゃったからね。でも、俺より宇佐美の方が―――」
「それは言わなくていいから!」
宇佐美が顔真っ赤にして、俺の腕を軽く掴む。
「―――っ」
一瞬、渚波の眉が動いた気がするが、気のせいだろう。
—――って思っていたら、渚波のスタイルに目が止まった。
薄手のセーターにグレンチェックラップスカート、落ち着いた黒のショートブーツ。昔のペッタンコ学生鞄を持った可愛い女子高生から一転、大人っぽくて綺麗な女優に見えた。
なにより凄いのが上半身の線。
服装が服装なだけに体の線が出る。
胸は豊かにも関わらず、ウェストは締まっているという、チート級のスタイルを見せつけられては、俺も何と返していいかわからない。
たかが高校とはいえ、ミスコンで圧倒的1位を獲得するだけあるなぁ。
「よ、よぉ、渚波」
「何そのニヤけたツラ。キモい」
宇佐美の奴、なんつーパス出してくれてるんだ。
そんなこと言われたら渚波が引くだろう。
ジト~~~~~~。
ほれ見ろ。渚波がとても警戒しているじゃないか。
「よぉ……」
なんかすごい暗い表情で挨拶してきたんだけど。
「澪どーした?」
宇佐美が白い目で尋ねると、渚波が慌てて否定した。
「あぁ……いや。真似?」
「「「真似?」」」
3人全員が首を傾げた。
どうして俺を真似してんの? 嫌がらせ?
いや、渚波はそんなことをする人間ではない。
とにかく、挽回するために服装を褒めようとした瞬間、渚波がやや下を向いて暗い表情になる。
—――あれ、いつもと渚波と違う。
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