第5話 二度あることは三度ある

 ガタンゴトンと揺れる朝の通学電車、俺はスマホとにらめっこしていた。


 いつもなら快速電車に乗るところ、ちょっと早起きしたので各駅停車の電車に乗った。


 最近、学校で集中出来ないことが多いので、1人で電車に乗っている時が一番集中出来る。


 う~ん、こっちの表現がいいかなぁ?


 書いては消してを繰り返す。


 電車が停まった。あと3駅で学校の最寄り駅か。あっという間だな。


 ラストスパート。気合入れて300文字書くぞ。待っていてくれ、ミヲすけさん!


「あ、あの、藤木くん?」


 最近馴染みのある、透き通るような声が聞こえ、顔を上げる。


「え、渚波?」


 目の前には、茶色の学生鞄を持った渚波が立っていた。


「おっ、おはよう」


「お……はよう」


 まさか、こうも渚波と一緒になるとは。


「隣、座ってもいいですか……?」


「ああ、もちろん」


 渚波が優しく座った瞬間、ふわっと、めっちゃ良い匂いが俺を包んだ。


 え、なんだろこれ。


 香水のような人を選ぶ匂いではなく、誰もが好む匂いがする。


 コンディショナーの香りかな。


 やばい、なんか右側が緊張している。


 もう少しで体が触れそうだったので、俺は渚波とは逆の方向に寄る。


 触れちゃダメだ。俺ごときが触れちゃ。死守しろ。渚波を。


「そっ、そういえば、藤木くんってクラスの全体LINE入ってないないですよね?」


「全体LINE?」


 クラスにそんなグループLINEなんてあったのか。


「知らなかったな。そんなLINEグループなんてあったのか」


「うん。苅部が主体で作ったものなんだけど」


 待てよ。それって、俺除外されてたってことじゃね。いや、忘れられていたのか?


 うわぁ結構ショック。立ち直れるかな……。


「えっ、えと……全体LINEだし……入らない?」


 渚波がスマホを出して、俺の方へ向ける。


「いいのかな、俺が入って?」


 自信無さげに訊くと、渚波は笑顔を俺に向ける。


「当然ですよ。だって、同じクラスじゃないですか」


 渚波の笑顔が眩しい。ねてた俺の心がみにくく見えてくる。


「そうだよね。じゃあ、入ろうかな」


「それがいいですよ!」


 渚波の笑顔がさらに明るくなった。


「じゃあ、さっそく交換ですよね。私のを読み取ってください」


 渚波がさっとQRコードを出した。


 全体LINEに今更入るという緊張を胸に、俺は渚波とLINE-IDを交換した。


「やった!」


 渚波が小さくガッツポーズしていた。


「やった?」


 何か良いことでもあったのか?


「え? あ……えとえと、やったというのはですね。クラスLINEを完璧にすると夢が叶いつつあって、とても嬉しいという意味でありましてっ」


 息もつかさぬスピードで渚波がくし立てた。


 変わった夢を持ってるんだなぁ。


 そんな偉大な夢があるならもっと早くに叶えて欲しかったよ。


 もう5ヵ月も経っちゃってるからね。


 クラスの波に完全に乗り遅れちゃってるから。


 もしかして、一学期終了の打ち上げとかやったんじゃない?


 シュー、という音を立てて電車が停まる。


 もう最寄り駅か。あっという間だったな。


 あと少しだけ一緒に座っていたかったけど、仕方ないか。


 ちょっとだけ残念に思っていると、渚波が明るい口調で、


「さ、藤木くん、行こ!」


 そう言う彼女の笑顔は、今まで見てきたどんな加工した写真よりも輝いていた。


 俺は渚波と一緒に学校へ向かった。


 学校に着くまで話が尽きなかった。


 渚波のぎこちなさも段々となくなってきた。


 こんな感じで距離を近づけたらいいな。


 ♦♦♦

 

「全体LINE?」


 ちなみに、山下も全体LINEに入っていなかった。


 昼食時、ラーメンを勢いよくすする山下に全体LINEの存在を伝えると、箸が止まった。


「俺も今日入ったばっかなんだけどさ、お前も入る? 全体LINE」


 山下はメガネをクイッと持ち上げ、


「……入らない」


 消え入りそうな声で呟き、再びラーメンをすすり始める。


「入った方がいいぜ。2学期はさ、体育祭とか文化祭とかがあるじゃん。その時の打ち上げだってここでやりとりされるだろうからさ。なぁ、入っておこうぜ」


「興味ないね」


 大剣を背負った金髪のキャラのような言い方をしていたが、今にも泣きべそかきそうな顔だったので恰好はついていない。


「なぁ、本当に入らないのか? 打ち上げとか行けないぞ?」


「いいもん、行かなくて。ウチのクラスなんか嫌いだ」


 ラーメンを弱々しくすする山下の姿が、ひどく惨めに映った。


 ★★★


 授業中、なんとなく全体LINEを開くと、そこには信じがたいメッセージがあった。


『”なぎさわ みお”が”藤木良介”をグループに追加しました』


(なんでアイツが……)


 苅部かりべ拓斗たくとは、周りの目など気にせず、左斜め後ろをちらっと見る。


 藤木と渚波が、授業を受けていた。苅部の視線に気付く様子はない。


(席が近いからか……? でもこの時間、通学中だ。まさか……)


 苅部は眉間にしわを寄せた。


(マークしておく必要があるな……)

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