おまけ。

ちょっと長いおまけ。メイドさん視点です。

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「俺と結婚してほしい」


 えっ? グレゴリー様、今何と?


 ちょっ、ちょっと待ってください。

 食事でも、とか今度のお休みにでもなく、けけけけ、結婚?


 え?


 そ、そんないきなりすぎるでしょ。

 結婚って、親にも話を通さなきゃいけないのに、どどどどどうすればいいのよっ!


 グレゴリー様の申し出は、とても嬉しいですし、結婚とか……とか……、えへへ。

 そっかあ、結婚か……。


 いや、でも今はちょっと考えさせてほしい。


 いきなりすぎる!



「職務中ですので」



 結局、そんな言葉で返してしまった。

 あああああああ。

 もうちょっと言いようがあるでしょ、私!


 こういう愛想のないところは改めろって、故郷のマリさんもよく言ってたけど……。


 あああああ。



 グレゴリー・ジャーコフ。

 魔王城防衛連隊の歩兵中隊指揮官。

 子爵家の息子さんだが、跡継ぎではないので、軍隊での出世を狙っている……らしい。


 初めて会ったのは、あの方の部下が酒に呑まれたあげくに、うちのメイドにちょっかいをかけてしまい、謝罪に来られたときだったと思う。

 まあ、その時の二人が正式に付き合い始めたので、いい情報源になっているのはたしかだ。



 二度目に会ったのは、大舞踏会の時だ。

 酔っぱらってしまった、とある伯爵様が、メイドに手を出そうとしていたのに気づいた私は、それが許せなくて、メイドの身分にも関わらず、飛び出してしまったのだ。


 ただのメイドが伯爵に口答えできるはずもなく。

 でも、私はただ意地になって、伯爵様の前に立ちはだかった。


 無礼討ちにされるなら、甘んじて受けるつもりだった。

 貴族には、貴族であるだけの尊い義務があるはずだ。


 若い女をいいようにするのが、貴族の仕事などということがあるわけがない。


 その時。

 グレゴリー様がその場に現れて、トラブルを解消してくれたのだ。


 執事のファーガス様が仰られていました。


「軍人なのに、よく気づける方だね。皆の立場とプライドを保ちつつ、落とすべきところに落とす。軍人よりも外交官にすべきかもしれないね」


 そう、私はグレゴリー様に助けられたのだ。

 いたずらに正義を主張して、伯爵様を追い詰めれば、その場にいた者は、特に私はただではすまない。

 また、伯爵様ですら、ここ魔王城で狼藉に及んだとなれば、決して愉快な扱いは受けないだろう。


 あれ以来、私はグレゴリー様が気になって仕方なかった。


 だけど……、だけど……。


 いきなり結婚の申し込みってなくない? ねえ!



 だが、後に、それが最後のチャンスだったと気づかされた。

 グレゴリー様は軍人だったのだ。



 勇者率いる人類軍が、魔族首都を急襲。

 その牙は、魔王城にまで迫っていた。




「魔王様御出陣! 魔王様御出陣!」


 伝令兵が叫んでいた。



「使用人たちは城砦裏の脱出路へ走れ! 黒森を抜け、エーレンベルク公爵領まで避難する! 急げ!」


 執事のファーガス様が珍しく剣を手にして叫んでいた。

 あの方は、お年を召しているとはいえ、かつては戦場を駆ける軍人だったと聞いています。

 使用人を守るために剣を手に取ったのでしょう。


 私は……、私は。


 ならば私も。

 これでも、東方では軍神として名高いウエスギの娘。


 私は私室にもどり、父から拝領したカタナを取り出した。

 鬼族の伝統の武器。

 銘は一文字。



 戦場となった魔王城で、私は他のメイドたちを城砦裏の脱出路に誘導していました。



「皆、避難しろ! まだ残っているものはいるか? 怪我をしているもの、動けないものはいるか!」


 そこに、グレゴリー様の部下であるザムザ様がいらっしゃった。


「あなたは!」


 ザムザ様は私に気が付いて近寄ってきた。


「一刻も早くお逃げください。グレゴリー中隊指揮官が敵を足止めしているうちに!」

「ど、どういうことなのですか」

「グレゴリー中隊指揮官は、回廊に防御陣地を構築、人類軍からの盾となっております」


「え?」


「あなたのために時間を稼ぎたいのだとおっしゃられて」


 私は立ち尽くした。

 その言葉。


 私は。

 私は。


「ありがとうございます。ザムザ様。回廊ですね」

「いや、私とともに一刻も早く……」

「これでも武門の娘です。グレゴリー様のおそばへと行きたい、そんな愚かな女の気持ちを許してはいただけませんか?」



「では、これを」



 ザムザ様が、丸いコンパスを取り出して、手に握らせてくれた。



「最後に中隊指揮官を助けに行けるように、追跡魔法がかけてありました。これをたどれば中隊指揮官のもとへ行けます」



 私はそれを受け取り、走り出した。


 今、ここで行かずにどうする!




 周囲を見ると、回廊が突破されたのか、人類軍の兵士が、そこかしこに見られた。

 使用人に向かって刃を向けている者は、容赦なく切る。


 そして城砦裏の脱出路を指示し、前へと進む。



 そして。


 彼が、グレゴリー様がいた!


 相手は三人。

 グレゴリー様の動きが鈍い。

 それはそうだろう。

 戦い詰めなのだから。



 私は飛び出して、今まさにグレゴリー様を貫こうとしていた槍の穂先を落とす。

 そして一閃。

 二人の人間の首を一撃で落とした。




 そして振り返る。


 グレゴリー様がそこにいた。


「私の夫になろうという男が、何を情けない様子をしているのだ?」


 グレゴリー様は生きていた。

 傷ついて、疲れた様子ではあるが生きていた。


 思わず、笑みがこぼれた。



 騎士らしき鎧の男が叫びながら長剣を抜いて襲いかかってくる。

 私はカタナを喉元の隙間に突き込んだ。



「g……gwooooo!!!!!」



 騎士は懐に入り込んだ私に対して、長剣を捨てて、短剣を抜いた。

 膂力とタフさは、圧倒的に相手の方が上だ。


 まずい……。

 せっかく、グレゴリー様に会えたのに……。


「うおおおおおおおお!」


 その時、叫び声とともにグレゴリー様が騎士に飛びかかった。


 短剣を弾き飛ばし、そのまま腕を掴んで転がした。


 私は鎧の隙間にカタナを突き込む。

 何度も、何度も。


 しばらく暴れていた騎士が動きを止めた。



 勝利を得た私たち。


「これを」


 私はポーションの瓶と食事をグレゴリー様に手渡した。



 そして。


 そして。


 そして。


 あの言葉を口にする。


「今もまだ、私を妻にしたいか」


「ああ」


 グレゴリー様は即答してくれた。

 血塗れの鎧と軍服。


 私たちにはこのくらいの方がよいのだろう。



「私の名前はカレン。ウエスギ男爵家の三女だ。生き残るぞ、グレゴリー殿。いや……」


 言え。


 言ってしまえ、私!




 私はグレゴリー様の方を見て。



 そして、絞り出すように口にした。



「私の旦那様」



「心得た。生き残ろう。カレン」



 な……名前呼び!


 グレゴリー様は立ち上がった。

 私はグレゴリー様に並び立つ。



 そう。

 私はこの方と肩を並べたかったのだ。



 私はグレゴリー様と肩を並べ。

 そして走り出した。

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魔王軍の士官だけど、魔王城勤めのメイドにプロポーズしたら人類が攻めてきて死にそうになるお話。 阿月 @azk_azk

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