あんたこそ雑魚中の雑魚って顔してるよ

雪乃と野村がアクセスしてきた時、雪乃の状況は緊迫していた。




ネットゲームの世界で王者になりながらも、現実の雪乃は希死念慮に追い詰められていたのだ。




野村からのメッセージはこうだ。


「雪乃を潰そうとする奴らを、あんたらの力で叩き潰してほしい」


喫緊の問題だと思った私は、すぐに雪乃と野村に会いに行った。




同行したのはフリースクールで私の意志に賛同してくれた松沢と笹田だ。




松沢は、


「パソコンとか電子機器とか、僕は人を傷つける武器だと思っているので苦手です」


と言いながら、サイトの立ち上げに関わってくれた。




笹田はサイトの構成をほとんど自分一人で作り上げたが、


「自分は文章能力だけ人並にあるだけ」


と言う不良少年。


巨門という暴走族の総長を当時やっていた。






そこであの会話だ。


「お前、アリサって、外国人なの」


笹田に悪気はなかったのだが、その時の雪乃には効いたパンチだった。


「あんたこそ雑魚中の雑魚って顔してるよ」


と雪乃は捨て台詞を吐いていたが、その雰囲気は本当に凍てついていて、氷で閉ざされた扉の中にいるようだった。




雪乃には、母方の南方の島国の親戚がいた。


その親戚も日本に来ており、近所で支えあいながら暮らしていた。




しかし、その親戚はこの国で重大な犯罪を起こした。




街の工場に勤めていたのだが、外国人だということで冷遇されており、恨みを募らせていった。


そして、その工場で放火殺人事件を犯してしまったのだ。




彼らはすぐに警察に逮捕され処罰される。




そして、火の粉は雪乃に降りかかった。




「放火魔」


「これだからガイジンは」


「あのコと今後一切関わってはダメだよ」




色々言われた。




小学生の時の雪乃は神童だった。テストで百点の常連であり、全国一斉学力テストでも上位十位に入るほどの頭の良さであった。


教師たちは彼女を持て余していた。


当時はギフテッドという言葉が世間に浸透していない時代。


頭が良くても、小学校の範囲以上の勉強を認められなかった。


今では信じられないかもしれないが、雪乃の生きてきたあの時代では、雪乃は「迷惑」な存在でしかなかったのだ。




言葉では「頭が良くて素晴らしいね」と言われながら、大人たちも、同年代の子どもたちも彼女の存在を持て余していたのだ。




それが、中学校に進学した途端にその事件があった。


雪乃の周りの人間たちは「しめた」とばかりに雪乃を糾弾し始めた。




「放火魔の仲間だよ、あのコは」


「絶対にあのコもいつか人を殺すよ」




そんな心無い言葉に、雪乃は追い詰められていった。




「私は、死ぬしかない」




初めて出会った時、私は雪乃に特別な縁を感じていた。


私は突出した才能も頭脳もないが、彼女の可能性を伸ばせるのは私だと思った。




松沢、笹田、野村、雪乃と私の五人は、この世界を破壊しつくす計画を立てると約束する。




それは、彼らが自由を手にする方法であり、私たちの安住の世界を作る計画だ。




雪乃はすぐさま手持ちのパソコンで国家の保有する膨大な電子データへの攻撃方法を計算しだした。


あの、新しいオモチャを手に入れたような無邪気に画面に向かう雪乃を見て、私は安心していたのだ。






私たちは結局、何も正しくない。




それを思い知らされる。

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