私は先生のお陰で不幸でした。どうもありがとう
初めて私たちが全員顔合わせとなった時、笹田は雪乃の名前を聞いた時に何の考えもなしに言った。
「森下アリサ雪乃。アリサって外国人の名前じゃん。おまえ、外国人なの」
雪乃はそれを聞いた瞬間、雰囲気を変えた。
それまで、やっと探し当てた居場所を見つけたような安心した雰囲気の中にいたのだが、雪乃の周囲だけブリザードになっているかのような冷たく厳しい空気になったのだ。
「私はその言葉嫌い。あんた私に嫌われたいんだね」
雪乃は氷柱のように冷たく尖った視線で笹田を捕らえた。
今思い返せば、なんてカワイイのだろうと微笑んでしまいそうになるが、ダメだね。
雪乃がまた冬将軍の娘になってしまう。
「冬将軍の娘」は、当時流行っていた漫画に出てくるラスボスを囲む四天王の一人だ。
ブリザードを自由自在に操り、半径1キロメートルを凍てつかせてしまう能力を持っている。
笹田と野村は、未だに雪乃のことを冬将軍の娘と言ってからかっているようだ。
まったく、いつまで経っても子供なのだから。カワイイったらないよ。
冬将軍の娘「オーディーン・ドーター」というのは、雪乃のネット上での名前だ。
最初、ネットゲームの中に彼女を見つけた。
オーディーン・ドーターは、無敵の強さを誇っていた。
私は、ネットゲームどころかゲーム自体がよくわかっていないのだが、野村が言うには対戦ゲームで彼女に敵うものは世界でも指折りの実力者だという話だった。
私は昔オーディーン・ドーター、雪乃に言ってみた。
「eスポーツを極めてみたらいいんじゃないの」
雪乃は、「勝者、オーディーン・ドーター」と大弾幕が揺れる紙吹雪が舞う豪華なパソコン画面を口をとがらせて見ながら答えた。
「私は、この現実世界で最強の破壊者になるの」
「なるほどね」と、私は言ってみたが、心配だった。
こんなに頭が良くて、聡明な子が、世界を破壊するための使命を持っているなんて。誰も彼女を許さないのでは、と。
私もあの頃から頭が固い旧型の人間みたいだ。
いつだって新しい正義は、世界中の全ての人の認めるものではない。
生まれたその瞬間は、世界に大いなる拒絶反応が起こるものだ。
古い概念なら、それを一切認めないのだろう。
そして、新しい正義を受け入れない旧型の人間は淘汰されていく。
私はその時代の移り変わりを観てきた。
だからといって、私は雪乃の味方になることができていただろうか。
人は皆、孤独を抱えている。雪乃のその孤独を埋める人間など、どこにもいないのではないか。
それも、私は観てきた。
雪乃はインターネットのイジメを期に、ネットゲームの世界に足を踏み入れた。
その陰湿なイジメの内容は、あまりに幼稚で馬鹿げていて。でも、雪乃の心を冬将軍の娘にするくらい、冷たく痛い吹雪の中に晒すくらい、酷いものだった。
雪乃はネットゲームの世界で正々堂々、自分をイジメてきた者たちを完膚なきまでに叩き潰した。
それが余計、雪乃を追い詰める者たちを増やすことになったのだが、その中で雪乃は戦士として磨かれていった。
雪乃の最大のライバルが、野村だった。
野村も野村で、クラスでは「うっすぃーの」と呼ばれるイジメのような弄りのようなものに晒されていた。
その現実世界より離れたネットの世界で、野村も相当な実力者だった。
野村と雪乃は切磋琢磨するなかで、チャットで交流していた。
お互いの事情を知ると、どちらともなくあるサイトの話になった。
「さあ、世界の次の扉を開けよう」
私たちのサイトだ。
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