言い当てられて「その通りだ。この野郎」っていうの何でだよw
思い出した。
碇刑事と手をつなぐことすら無かったのは、そういえば両親と私の関係に原因があったのだ。私が箱入りだとバレたのだった。
「真澄さんが大切にされていることはわかったけど、三十過ぎてまで親に依存しているのはどうかと思う」
返す言葉もなかった。
そして、親から離れる方法もなく、自立する当てもなかった。
自分では色々試してみた。
中学校入学を控えた小学校六年の春、他県の中高一貫の寄宿学校を進学先にしたいと提案した。
高校も、他県の通信制を選びたくて、その土地の賃貸やアルバイトを探した。
大学への進学を断念したが、今いるこの土地の賃貸とアルバイトを探したのは十九、二十歳の頃からだった。
どれも両親に断念させられてきた。
引きこもりオバサンの私も、自立したいと願っていた。
両親の親心というやつだったのだと思うが、正直あの人たちとどうやって接すればいいのか、良かったのか、未だに謎なままだ。
「真澄ばあさんって、年に似合わない若い心持っているのな。甘えてんなぁ。本当に心はピッチピチの現役女子高生じゃん」
「この小僧、言い当ててくれるなよ。その通りだ。この野郎」
碇主任は笑っている。
「言い当てられてこの野郎って言うのなんでだよ」
釈然としない。
しかし、碇主任に言われると、いくらかすんなり心の中に入ってくる。
今まで出会ってきた大人たちは、自分の親がいかに素晴らしいか懇々と説いてきた。あんたの親はおかしいが、自分たちの親はこんなに素晴らしいのだと何度も聞いた。それに若い私は辟易していた。
親と自分との関係は、当人だけの問題ではないのか。それを他人が正か負か判断するのは間違っているのではないか。
と、まともに真正面から反抗してきたので、私は教師やら先輩やらに目をつけられてきたのだろうと思う。
ハッとした。私も今、碇主任に言ってしまっていた。最悪な奴らだ、頑張ってきたんだ、などとなぜ私のような者が言えるのか。
「ごめん。碇主任。私は年上だからって偉そうに言ってしまったね」
「はあ」
碇主任はもう忘れたよというようなため息を吐いた。
「いいんだよ。俺は真澄さんに話したいから話してんの」
どういうことかな、と考え込む私の肩をたたき、その指で指し示す碇主任。
「見てみろよ、この湖。ここは昔、世界の中心だったそうだよ。そして別の世界から来た神には、全くの新しい異世界だったらしい」
昔、異世界転生ものの小説が流行った時代があった。あの頃三十代だった私は、トゲトゲの心でこの世界に反抗していた。あの小説たちを読みながら、私も死んだら異世界に転生するのだろうかと夢うつつで考えた時があった。どこに行っても、農民から始めても、大魔王になっても、チート能力者でも、私は結局その世界に反抗するのだろう。私は、どこへ行っても変えていくことを諦めないのだろう。
そんな決意でいた。
この世界の古い神話には、どこの地域のものでも、異世界転生的な物語があるらしい。ある神が元々居た場所では全くのポンコツで、新しい世界で冒険して素晴らしい宝を得る、というパターンが各地に語られているそうだ。
「俺もポンコツだってこと、真澄さんに出会って思い出したわ」
「それは何かの嫌味かな」
私は見た。碇主任の笑顔を。
目をまん丸くしている私に、碇主任は説明してくれた。
「この一番大きな古傷、母親につけられたんだけど。これは、お前みたいなやつが何でまともに五体満足なんだって、切り落とされそうになったんだよな」
腕に広範囲に残る深かったであろう大きな切り傷の茶色い跡。
「わけわからんよな。五体満足に産んだ自分に感謝しろってことかな。あいつ、母親、なんか日本語がおかしいんだよ」
こっちは、と言って見せてくれたのは、まだ新しい火傷の跡。
「親父にさ、煙草やめろよって、子供いるんだから配慮してくれって言ったんだよ。つい先週、煙草の火、押し付けられたわ」
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