最終話 俺と美少女!?

 俺が告げると現実から隔離された世界みたいに音が消えた。まるで時間が止まったみたいだ。広場からの喧騒が聞こえ始めてから頃、俺は言葉を紡いだ。


「今まで黙っててごめん」


 自分で言っておいてなんだけど、そう簡単に信じてもらえるとは思えない。だって、俺が彼女の立場だったら信じねえよ。今更なんのつもりだって思ってるに決まってる。からかってると思われても文句は言えない。けど、今日……このタイミング以外で彼女に伝える機会があるとは思えない。例え嫌われようと1人で後悔するよりマシだ。


「……」


 ノアさんは何も言わずにジッと俺を見つめている。転校してきた初日から何も変わってない。俺の考えてること全てを見透かしてるんじゃないかって思えるくらい透き通った彼女の瞳が俺を捉えている。


「太一くん」

「え?」


 そんな彼女から初めて名前で呼ばれた。俺が親しい女子たちは積極的で個性がありすぎる人しかいないからあまり感じなかったけど、やっぱり照れる。


「今言ったことは冗談じゃないですよね?」

「……」


 俺は黙って頷く。


「この場を和ませるためについた嘘でもないですよね?」

「もちろん」


 質問に答えて再び頷く。当たり前だろ。ここで俺が嘘をついたところで場は和まない。嘘をつくならもっとマシなものにするさ。例え俺の言ったことを信じてくれなかったとしても伝えなきゃならない。2人っきりのこの機会を逃したら2度と伝えることがないかもしれない。それなら、例え嘘をついてると思われようと真実を伝えるべきだ。このまま何も言わずに黙っていたら2度と会うことはできないんだから。


 数秒の硬直。ゆっくりと彼女は頷いた。


「……やっぱり、そうだったんですね」


 どこか納得したような彼女の表情に俺は眉をしかめる。


「やっぱりって……どういうこと?」


 まさか俺の知らない間に気づいていたのか? てっきりバレないと思ってだんだけど。ボロは出してないから気づかれる隙なんてなかったはずなのに。


「なんとなくですけど、あの日わたしを助けてくれたのは太一君ではないかと思ってたんです」

「うそ!? マジで!?」

「マジです。でも……そんなことないって思ってたんです。ただ、似ているだけに過ぎないんだろうって」

「そ、そうだったんだ」


 思い返してみれば確かに彼女はどこか俺を不思議そうに見ている時もあったような気がする。単なる勘違いだと思って気にしなかったけど、やっぱり彼女もうすうす俺が助けた人だと感じていたんだろう。


「でも……太一くんはどうしてすぐに名乗り出なかったんですか?」

「どうして?」

「い、いえ。助けた人がわたしみたいな人なら名乗り出るのが普通かと思ったので……気に障ってしまったのならすみません」


 確かに。すぐに自分が助けた人物だと名乗り出ることもできたはずだ。それに名乗りでることに関してはメリットしかない。だって、自分が助けた相手はとんでもない美少女だ。男に生まれたからにはできることなら自分だけが仲良くなりたいし、正体を告げれば好感度上がること間違い無しだろう。現に大勢の男子が名乗りをあげたみたいだし。美味しい話が待っているにも関わらず俺はそうしなかった。


「俺には名乗り出る資格がないと思ったから……かな」

「え?」

「俺が痴漢犯からノアさんを助けたのは紛れもない事実さ。けど、最初から助けようだなんて思ってなかったんだよ。俺以外の誰かが気づいて助けるだろうって考えてたんだ。そんなやつに助けられたってノアさんが知ったら悲しむと思ったから堂々と名乗り出るのはダメだと思ったんだよ」

「……そうだったんですね」


 それに加えて事が重大過ぎてビビったのもあるけど、恥ずかしいから黙っとこう。


「けど、なんであの時の俺はノアさんを助けたのか。その答えがようやくわかったんだ」

「答え?」


 ああ。迷いなんてない。俺の答えは既に出たんだから。


「初めて見た時から、俺はノアさんが好きになってたんだと思う。だから、危険な目に遭ってるノアさんを見て過ごすことなんてできなかった。あいつから……助けたかったんだ」


 首を傾げてこちらを見つめていた彼女から目を逸らさずに俺は告げた。


「……?」


 俺が告白してから数秒間、再び俺たちの間に沈黙が流れる。最初に慌てたのは告白した俺ではなく、言葉を聞いた彼女の方だった。


「……!」


 驚きのあまり微かに口が動いているものの、彼女からは声が聞こえない。本人は喋ってるつもりなんだろうけど、あまりにも小さすぎる。俺が言ったことを理解したものの、


「それが理由なんだけど、納得してくれる?」

「……は、はい」


 恥ずかしげな表情を見せる彼女とは対照的に俺は清々しい気分だ。なんせ肩の重荷が綺麗さっぱり無くなったんだからな。


「あ……」

「降ってきたな」


 俺たちの頭上から雪が降ってくる。そういえば夜になったら俺たちの住んでる地域は雪になるかもって予報だったっけ。


「教室にいこっか。冷えてきたし」


 このままここにいても体を冷やすだけだ。早く教室に向かった方が賢明だな。今頃、教室じゃ黒須を筆頭に打ち上げで盛り上がってるに違いない。もしかしたら植木先生あたりがご馳走を差し入れしてくれてるかもな。無くなる前に俺たちも向かった方がいいからな。


「太一くん!」

「ん?」

「あの……あの時は……本当にありがとうございました。わ、わたしも──」


 ぺこりと頭を下げ、すぐに顔を上げて話す彼女の表情はいつもより輝いて見えた。俺が初めて彼女の姿を見たテレビの映像とは比べ物にならないくらいにさ。


 正体を告げたことに関してあとでルイスからガミガミ言われるかもしれないけど、そんなことはどうでもいい。まだ残ってる高校生活全ては永久凍土さえも溶かすほど暖かい彼女の笑顔を守りたい。ルイスみたいに姫を守る騎士としてじゃなく、彼女に恋した同級生。男子の1人として。






 これにてひとまず完結になります。10万字作品を書くのは初めてでしたが、とりあえず完成させることができてよかったです。ありがとうございました。

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痴漢されている美少女を救った俺、仮装していたはずなのに正体がバレそうなんだが @hatyoumiso

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