第64話 杏樹連れ去られ事件!(2)
いや、たしかに日本史研究室を出たときから見てなかった。日本史研究室を出て、それから先輩の車に乗り、この店に来た。そのあいだずっとだれかと話していたので、ずっと見ていなかったけど……。
なんでこんなに?
見てみる。
送信者に「どんたく」が並んでいる。
あの、一年生でマスメディア研にいて仲のよかった、いまも仲のいい子だ。顔も体もまるくて、ツインテール、黒とベージュ色の、まあちょっと安っぽいセーターをいつも着ている子。
で。
メッセージのほとんどが「どんたく」だ。学校から、五時になったので研究室公開を終了します、っていうメッセージが入っていたりしたけど、それ以外は、もう、「どんたく」だらけ。
しかも。
「だいじょうぶ?」
「どこにいる?」
「無事?」
「連絡して」
「一言でいいから
なんかやたらと切迫している。
しかも、
「だいじょうぶ?」
「これ読んだらすぐにどんたくに連絡して」
というのがいっぱい来ていた。
そのなかにはあの半年もいないでやめたサークルの子がたくさんいた。こっちも「着信お知らせ」の数がもうちょっとで百という数だ。
「炎上」?
杏樹が?
いったい何があったんだろう?
すぐにどんたくに電話して無事を伝えたい。
でも、二十歳の誕生日に飲酒はいいとして、二十歳の誕生日に電車のなかで電話、っていうのも、なんか、やりたくない。
それで
「無事だよ? 何があった?」
と書こうとして、「無事だよ」の後ろの「?」を削除して送信した。
どんたくはのんびりした子だけど、こんなに気もちが切迫しているのなら、「?」一文字でまたすごい心配をするかも知れない。
そうすると「どんたく」からあふれるようにメッセージが来た。もちろん、ひとしきり受け取ったら「あんじゅ」から「どんたく」へもメッセージを打ち続けた。
電車に乗っていた時間は長かった。
そのあいだ、ずっとメッセージのやり取りをして。
それで、やっと杏樹炎上事件の全体像が見えた。
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