第50話 重めで渋くて暗い味(5)
「ところがさ」
先輩は目をぎゅっとつむった。
「その女の子の友だちだったあいつが出し抜いて、男を
最後のほうは声が
いちおう、きいておく。
先輩は
「それが」
「
「
「そう」
後ろに回していた髪が前にだらんと垂れる。
もっと……もっとおしゃれをしてこないといけなかったんだ……。
その声を杏樹に伝えてくれていたのは、何者だろう?
嘉世子先輩は、そこで、がくっと顔を上げた。
がくっと顔を伏せたのではなくて。
上げた。
「しかもさ」
前のほうに目を迷わせて言う。
普通の感覚で言えば、どんなに目を動かしても、そこにはカウンターの前の面しか見えないはずだが。
「あいつの家、
庄屋とはまた古い。言いかたが。
でも、それで納得できた。
どうしてあの人があんなに「日本史」って環境に慣れていたか。
たぶん、その「庄屋」という、生まれ育った家の古さと関係があるのだろう。
紅茶を飲んで、食べているのがバウムクーヘンで、それでパスチャライズドミルクの話をしていても、このひとのいるべき場所は「日本史」なんだということを感じさせてくれた。
「やつがそんな事件起こしたせいで」
「男を盗った」と「そんな事件」でも何かよくわからないけど、つまり、エッチしてしまった、ということだろう。
あの美人だ。
男なら、拒まれなければ、エッチぐらいしたいと思うだろう。
拒まれなければ、というハードルは、けっこう高そうだけど。
「その家はめちゃくちゃになって、あいつのおじいさんは自殺、でもあいつはそのおじいさんの葬式にすら出ないで家出、それで遠い町に逃げてキャバ嬢なんかになってしまって」
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