第47話 重めで渋くて暗い味(2)

 新しいボトルと新しいワイングラスで、こんどはさっきの切り子細工的なのと違って、透明だけど、脚と上の縁のほうにほんのりと色がついているものだった。琥珀こはく色というのだろうか。

 杏樹あんじゅの前のワインも残っていたけれど、つんさんは二人にそれぞれ注いでくれる。

 先輩は、軽く香りをかいでから、一口飲んだ。

 杏樹は、さっきので十分「重い」と思っていて、今度はそれより重いらしいので、警戒した。

 実際にお酒っぽい香りはよどむくらいに濃いと思ったし、香りは地味、というより、暗い森の落ち葉を思い出すようなにおいだった。でも、さっきのより「重い」かというと、ううん、同じくらいかな、というところだ。

 つん子さんが台所に戻る。その様子をずっと目で追ってから、先輩は言った。

 「ところで森戸もりとちゃん」

 「はいっ?」

 その言いかたはそれまでとまるで違っていた。どきっとするような重みがある。

 心臓に悪い。それまで顔全体がぽうっと温かかったのが、熱いところと冷たいところのまだらに変化したみたいだ。

 「なんで日本史なんかに行ったの?」

 来た、と思った。

 現社に先輩がいることを知っていて、浮気した……。

 たしかに、あれを言われたとき、冗談では終わらない予感はあったのだ。

 「なんで、って」

 先輩が無言でワインを飲み、横目で杏樹を見る。

 杏樹はとっさにワインのボトルを取った。

 先輩のグラスは半分ほど空いている。もともと小さいグラスなのもあるけれど。

 そこにワインを足して、時間を稼ぐ。

 なぜかはわからないけど、あの安寿あんじゅ姫の話はしたくなかった。

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