第11話 日本史研究室のお茶会(4)

 杏樹あんじゅはそんなので覚えていたのではなかった。

 最初に、その地形がわかるという白黒の写真を見て、そのあと、カラーの鮮やかな写真を見せられた。そのカラーの写真に写っていたいちばん近くの家の屋根が赤みがかった茶色で、その上が晴れた空で真っ青で、玄関のポーチの飾り窓がおしゃれで、こんな家に住むのもいいなぁ、と思った。それで覚えていたのだ。

 悟られてはいけない、と心に誓う。

 悟られなかった。先生は続ける。

 「いまは、衛星写真を使って、隠れている昔の地形をあぶり出すっていうのもできるようになってるけど、でも、いまは、まだ、衛星写真があっても、このへんに何かありそうだって見当がついていないと目的のものを見つけられない段階だからね。それも重機で掘り返されちゃったりしたらやっぱりわからなくなってしまうから」

 へえ。衛星写真でそんなのがわかるんだ。

 それも、現代の秘密の地下施設とかじゃなくて、日本史が取り上げるぐらいの昔のことがわかる。

 新知識だった。

 「あの」

 印象の薄いいずみ仁子じんこが声を立てた。

 「お寺をとりでに使うんですか?」

 うむ。そういう疑問かぁ。

 「そうよ」

 先生はあたりまえのことのように答えて、ミルクティーを少しだけ飲んだ。

 「中世のひとだったら、そんなことをしたらばちがあたる、とか考えなかったんですか?」

 おお、罰と来たか!

 杏樹はそんなことはまったく考えなかった。

 「それはわからないけど、戦争のときの砦に、お寺とか、わりと使ってるわよ。あと、仁子ちゃんが関心がある古墳とかもね」

 「え」

 仁子が濁った声を立てた。杏樹にとってはまたも新しい発見だ。この子がこんな声を立てるんだ。

 「中世のひとって、わりと罰あたりなことやるのよ。もちろん怖がらないわけじゃないのよ。怨霊おんりょうとかたたりとかね、すごく怖がった」

 仁子が軽く首を傾げる。言う。

 「だったら、どうして?」

 「それを解くのがあなたたちの仕事でしょ?」

 横で結生子ゆきこさんが言う。澄まして。

 「って、この先生は言うの」

 そういうことか。

 「だから怖がられるし、めんどくさがられるのよね」

 「結生子ちゃん!」

 先生が叱る。

 「今日は研究室公開だっていうのに。ほんっっとに、お仕置き、必要なようね」

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